| | | | | 3d遷移金属酸化物は、誘電材料(コンデンサーなど)、磁性材料(磁気テープなど)、電池材料(リチウムイオン電池など)、その他、実に広い範囲で利用されてきた。それを支える学術的研究は、科学全般のなかでも比較的長い歴史をもつといえるが、全く予期されなかった高温超伝導の発見(1986年)が大きな変革の契機となった。かつてないほどの規模で実験的、理論的な研究が行われたにもかかわらず、その超伝導機構は未だに誰しもを納得させるものが確定されるに至らない。これは、なじみ深い3d遷移金属酸化物といえども、まだ我々の理解の及ばない未開拓部分の多いことを示すものであり、さらに新奇な物質と物性の開拓をめざして戦線を拡大することをうながす効果を発揮してきた。現在では、3d遷移金属酸化物は電子相関の強い系であり、そのために電子の持つスピン·電荷·軌道の自由度が絡み合った新奇な電子物性とそれを活かした新しいタイプの機能材料を生み出す宝庫と見なされている。 本研究は、このような流れに沿って、新奇な3d遷移金属酸化物と物性の開拓をめざしたものである。しかし、新物質、新しい物性いずれについても、多体効果に基づく予測困難性がある。本研究では、できるだけ単純で、しかも将来の方向を示唆するモデル物質と考えられた反強磁性量子スピン梯子系をまずは対象にとりあげ、多彩な合成法と多様な物性測定を用いて、対象を拡大していった。 | | | |