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戦略的基礎研究推進事業 平成7年度採択研究課題 研究終了報告  389-402
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新規“有機ゼオライト”触媒の開発
青山 安宏1)
1) 九州大学有機化学基礎研究センター
「物質は溶けてはじめて変化する」。古代ギリシャの哲人の言葉だそうである。これに影響されたのかどうかはともかく、有機化学·有機合成の分野ではもっぱら溶液が好まれてきた。分子は溶けてはじめて運動性を獲得し、反応相手に出くわすことができるとの信仰がその背景にある。反応のメカニズムや選択性を理解し、それに基づいて分子設計や反応設計を行う場合、固体表面のような複雑な集合系よりも溶けた単分子系がはるかに単純で分かりやすいことも重要であっただろう。かくて、有機化学は溶液の化学が主流となり、「まずは溶かし、あとは抽出によって分離する」有機合成のプロトコールが定着した。そして、水に敏感な強酸や強塩基を無水の有機溶媒中で巧みに用いるドライな有機化学が、生体系の化学とはかなりかけ離れた形で、前世紀を通じて独自の進歩を遂げ、効率(反応収率)や選択性に関して優れた反応が多く見い出されてきた。しかしながら、単位量の目的物を得るのに、溶媒なども含めた物質が全体としてどれだけ消費され、どれだけのエネルギーとマンパワーと装置とスペースと.....を要し、どれだけの廃棄物を生じたのかに思いを馳せるならば、昨今の物質変換プロセスが効率的であるとはとても言いがたい。我々は固体触媒の有効利用が解決策の一つであろうと考えた。ゼオライトのような内部空孔を有する多孔体は回収·再利用性など固体の利点をもつ一方、内部が利用できないという固体の一般的な欠点を克服するものであり、特に興味深い。そればかりではない。空孔(ポア)への基質の取り込みはある意味で酵素反応に通じるものがあり、官能基の協同効果や反応選択性にも寄与するものと考えられる。我々が特に関心をもったのは、このような多孔体触媒を有機骨格をベースとして創りだすことである。有機化合物は構造や相互作用のトポロジーにおいて多様性を示し、無限の「設計」が可能である。有機多孔体触媒をブレークスルーとし、物質変換プロセスを時代の要請にも合致する形で質的に改変することが本研究の究極の目標であった。

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