| | | | | われわれは、本研究において、生体防御に関わると思われるサイトカインやその受容体さらにその下流に存在するシグナル伝達分子のノックアウトマウスを作製·解析することを通じて、生体内における役割をあきらかすることを目的とした。まず、サイトカインのシグナル伝達経路で活性化される転写因子STATファミリーのノックアウトマウスを作製し、その機能を解析した。STAT3ノックアウトマウスを作製したが、胎生期(胎生7-8日)に致死となり、キメラマウス作製による解析が不可能であった。そのため、Cre-loxPシステム法を用いて、組織特異的にSTAT3を欠損させ、各組織におけるSTAT3の役割を検討した。STAT3をT細胞特異的に欠損させたマウスではT細胞のIL-6,IL-2依存性の増殖が障害されており、その原因がそれぞれIL-6によるアポトーシス阻止の欠陥、IL-2によるIL-2Rα鎖の誘導の障害によることがあきらかとなった。また、マクロファージ特異的にSTAT3を欠損したマウスでは、エンドトキシンショックに対する感受性が極めて亢進していた。また生体内でマクロファージがTh1反応誘導にかかわるIL-12を多量に産生し、Th1優位となり、慢性炎症性腸炎を生じてきた。これらの表現型は、抗炎症反応にかかわるサイトカインであるIL-10を欠損したマウスと類似していた。実際、STAT3欠損マクロファージはIL-10に対する反応性が消失しており、STAT3がマクロファージにおいては、IL-10によるシグナル伝達に必須であることが判明した。皮膚特異的にSTAT3を欠損したマウスでは、創傷治癒の遅延がみられ、EGFによるケラチノサイトの移動が障害されていた。このように、STAT3は、組織ごとに異なる作用を有し、多彩な生物反応にかかわる分子であることがあきらかとなった。一方、STAT6ノックアウトマウスは、Th2細胞分化に必須のシグナル伝達分子で、STAT6ノックアウトマウスでは、アレルギー性気道炎症モデル実験において、抗原感作による好酸球浸潤をともなう気道炎症と気道過敏性の増加がまったくみとめられなかった。このことは、Th2病の代表であるアレルギー性気管支喘息発症にSTAT6が深く関与していることを示しており、STAT6の活性化をブロックすることが気管支喘息の治療につながる可能性を示唆した。 | | | |