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第4回領域シンポジウム予稿集 環境低負荷型の社会システム Social Systems for Better Environment Performance  31-36
アイソトポマーの計測による環境物質の起源推定
吉田 尚弘


主な発表論文等
[論文1] Nature, 405, 330-334, 2000.
N. Yoshida and S. Toyoda, Constraining the atmospheric N2O budget from intramolecular site preference in N2O isotopomers
フラグメンテーション法を導入した高感度精密質量分析システムを構築し清浄大気中のN2Oの15N分子内分布を初めて求めた。15NはNNO分子内の中央位に選択的に存在することを明かにした。この席選択性は大気中で有意な変動があり、対流圏では土壌や化石燃料起源の低い席選択性のものと清浄大気の混合が起きている可能性を示唆し、成層圏では紫外光分解における分別により席選択性が高くなっていることを明らかにした。生成·消滅過程の特定に有効であることを示す一方で、アイソトポマーのマスバランス計算を行い、地球規模でのN2O収支の定量化に有用であることを示した。本論文は有効な指標を与えたとしてIPCC2000に引用された。
[論文2] Global Biogeochemical Cycles, 2001 in press
F. Nakagawa, N. Yoshida, Y. Nojiri, and V.N. Makarov, Production of methane from alasses in eastern Siberia; Implications from its 14C and stable isotopic compositions
シベリアの永久凍土帯は地球温暖化に正のフィードバックを持つ可能性がある地域であるとともに、天然ガス田も多く存在し、大気メタンへの寄与は大きいと考えられる。とくに温暖化に伴って、凍土帯からのメタンフラックスの増大が予想されている。凍土帯の水素·炭素安定同位体組成は、天然ガス田と大きく異なり、凍土中の2つの生成過程の寄与によって決まり、湿地では主にCO2還元過程により生成されていることが分かった。14Cについては、湿地では現在に比べ低く、過去に生成され閉じこめられたメタンの混入の可能性が示唆された。
[論文3] Tellus, 2001 in press.
H.A. Takahashi, E. Konohira, T. Hiyama, M. Minami, T. Nakamura, and N. Yoshida, Diurnal variation of CO2 concentration, Δ14C and δ13C in an urban forest-Estimate of the anthropogenic and biogenic CO2 contributions-
名古屋市をモデルとして都市域におけるCO2濃度および同位体組成の日変動を鉛直分布を、都市2次林内に設置した約20mの観測タワーと隣接する85mのテレビ塔を用いて、観測した。人為起源としては石油燃焼起源および天然ガス燃焼起源に分けられ、それら人為起源と生物起源の混合比の鉛直分布の日変動を明らかにした。 土壌呼吸が主と考えられる冬期の生物起源CO2はその生成量が時間によらずほぼ一定で、人為起源の付加量が鉛直方向で時間的な変動を示した。
[論文4] Sensors and Actuators B 74, 173-178, 2001.
K. Uehara, K. Yamamoto, T. Kikugawa, N. Yoshida, Isotope analysis of environmental substances by a new laser-spectroscopic method utilizing different pathlengths
メタンの炭素安定同位体比およびN2Oのアイソトポマー等の精密計測が可能な吸収分光分析法を提案した。波長安定化した複数の近赤外半導体レーザー光源と同位体存在度の大きな相違を補償する光学系などの内容を含む、アイソトポマー吸収分光分析装置を構築した。複数の光ビームを、一組の反射鏡を有する多重反射吸収セルに、異なった角度で入射させることにより、存在比に見合った異なった光路長を実現し、異なる同位体種に対して吸収信号レベルを同程度にすることで、同位体存在比を精密に測定可能とした。
[論文5] Rapid Communications in Mass Spectrometry, 15, 1263-1269, 2001.
S. Yamulki, S. Toyoda, N. Yoshida, E. Veldkamp, B. Grant, and R. Bol, Diurnal fluxes and the isotopomer ratios of N2O in a temperate grassland following urine amendment
英国草地環境研究所において施肥された草地から発生するN2Oのフラックスとアイソトポマー比を測定した。フラックスには日変動が見られ、1日に1回の測定で求められる日フラックスは不正確になり得ることを示した。15Nの分子内席選択性が対流圏のそれより低かったことから、対流圏N2Oは、成層圏から流入するN2Oと土壌から放出されるN2Oとの混合によって説明され得ることを明らかにした。また、アイソトポマー比の時間変化から、N2Oの生成·消滅過程に変化があったことが示唆された。
[論文6] Biogeochemistry, 2001 in press
F. Nakagawa, N. Yoshida, A. Sugimoto, E. Wada, T. Yoshioka, S. Ueda, and P. Vijarnsorn, Stable isotope and radiocarbon compositions of methane emitted from tropical rice paddies and swamps in Southern Tailand
メタンの発生源として重要な熱帯湿地および水田についてタイ国南部を代表地として選び、メタンの生成量に加えて、水素·炭素安定同位体比および放射性炭素同位体組成を観測した。日本にくらべて10倍程度発生量の高い水田はその同位体組成に大きな季節変動があり、降水等の環境因子の変動と関連することを明らかにした。放射性炭素同位体組成から水田のメタンソースの平均滞留時間は約12年と湿地の約30年(高緯度と湿地はさらに長い)より短いことを明らかにした。
[論文7] J. Geophys. Res. 2001 in press
S. Takuya, U. Tsunogai, K. Kawamura, T. Nakatsuka, and N. Yoshida, Variation of the carbon isotopic composition of light hydrocarbons in the western North Pacific marinboundary layer
西部北太平洋の洋上大気を採集し、メタンのシンク競合物質である軽炭化水素の炭素安定同位体比を観測した。エタンについては、沿岸から外洋に長距離輸送される際に顕著に見られた、低濃度における同位体比の上昇から、分別を受けて活発に消滅していることが分かった。iso-ブタンおよびn-ブタンの同位体比は広い範囲をとり濃度と相関がないことから少なくとも2種以上の異なるソースの存在が示唆された。両成分の消滅の際の同位体分別係数はメタンのそれと同等であると見積もられた。
[論文8] J. Geophys. Res. 106, 7515-7522, 2001.
S. Toyoda, N. Yoshida, T. Urabe, S. Aoki, T. Nakazawa, S. Sugawara, and H. Honda, Fractionation of N2O isotopomers in the stratosphere
一酸化二窒素のアイソトポマーの成層圏における分布を、大気球を用いて日本上空において採取した試料の分析により求めた。アイソトポマーは比は高度とともに増加し、また非常に大きな15Nの分子内席選択性が観測された。このようなアイソトポマーの濃縮は、既報の光分解実験や理論的計算による予測と概ね一致したが、詳細に解析した結果、観測と実験または理論との間にはいくつかの相違があり、成層圏の気団の起源、年代、輸送·混合過程や成層圏における太陽光のスペクトルの分布、また他のN2O消滅過程の寄与等を解明するのにN2Oのアイソトポマーの情報が有効である可能性が示唆された。
[論文9] Geochim. Cosmochim. Acta, 64, 2439-2452, 2000.
U. Tsunogai, N. Yoshida, J. Ishibashi, and T. Gamo, Carbon isotopic distribution on methane in deep-sea hydrothermal plume, Myojin Knoll Caldera, Izu-Bonin arc: Implications for microbial methane oxidation in ocean and applications to heat flux estimation.
メタンの自然発生源の一つである海洋底熱水ベントからの発生について西部北太平洋においてその生成量と炭素安定同位体比を観測した。海水中でのメタンの濃度と同位体比から、メタンの微生物による酸化分解の際の同位体分別は1.005であること、ベントからのメタンのフラックスは90-340mol/dayと大変大きいこと、ベントからの熱フラックスは30-110MWであること、熱水メタンの平均滞留時間は60-240日であること等が分かった。
[論文10] Analytical Chemistry, 71, 4711-4718, 1999.
S. Toyoda and N. Yoshida, Determination of nitrogen isotopomers of nitrous oxide on a modified isotope ratio mass spectrometer
N2Oのフラグメンテーションで生成する複数のイオン種の計測が可能となるよう改造した同位体測定用質量分析計によるアイソトポマー計測法を提案した。フラグメントイオンの同位体比はイオン源における転位反応の影響を受けるが、実験的に求められる係数を用いてこの影響を補正することが可能であり、高純度N2O試料の場合の測定精度は0.1パーミル以内であった。N2Oのアイソトポマー標準試料の作成についていくつかの方法を検討し、2つの方法で較正を行った。
[特許1] 特願平11-039456、特許第00-3048146号 (国内)、米国出願、EPC出願
吉田尚弘、坂入実、木村宏一、加藤義明、小泉英明 「アイソトポマー質量分析装置」
電場、磁場よりなる二重収束型高分解能磁場型質量分析計を用いて、イオンの加速電圧の一部を走査することにより、分子内に同位体を含む分子種であるアイソトポマー分析を行う。このとき、増幅率の異なる増幅器を並列に使用して、ピーク強度の大きく異なるイオン種間の感度差を低減する計測技術、および最大エントロピー法などのデータ処理技術を導入し、測定精度向上を図り、もってアイソトポマーの自然存在度の計測を可能とした。
[特許2] 特願平11-84898 (国内)、米国出願、EP出願、露国出願
上原喜代治、吉田尚弘、菊川知之 「アイソトポマー吸収分光分析方法及びその方法」
同位体シフトを利用した吸収分光分析法と同位体存在度に関連する光学系などを含む、アイソトポマー吸収分光分析装置を発明した。複数の光ビームを、一組の反射鏡を有する多重反射吸収セルに、異なった角度で入射させることにより、異なった光路長を実現した。これにより、存在比に見合った光路長差をつけることができ、異なる同位体種に対して吸収信号レベルを同程度にすることで、アイソトポマー存在比を精密に測定することを可能にした。