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平成12年度事業開始
神戸市 「再生医療にかかる総合的技術基盤開発」
  157-166
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ドパミン産生細胞の脳内導入にかかる細胞追跡技術の開発
汎用レポーター遺伝子発現とその検出法の確立
臨床適用の可能なF-18標識薬剤合成システムの開発
ステロイドレセプター親和性F-18標識薬剤の合成と基礎評価
F-18標識エストラジオール合成のノウハウ移転技術に関する技術的検討
血管再生治療実現に向けてのモニタリングシステムに関する基礎研究

米倉 義晴1), 藤林 靖久1), 古川 高子1), 岡沢 秀彦1), 森 哲也1), 川井 惠一1), 天野 良平2)
1) 福井大学
2) (財)先端医療振興財団
Abstract  機能性細胞を移植し生体が失った機能を復活させようとする再生医療が非常に注目されている。これには、血液幹細胞をはじめとするいわゆる“万能”細胞の発見と、それらを特定の方向に分化制御する技術が進歩し、機能性細胞を入手することが可能となったことによるものが大きい。さらにクローン技術と胚性幹細胞(ES細胞)作成技術が、患者本人から“万能”細胞を作成し分化させることを原理的に可能にした。これにより組織適合性の問題を一切考慮する必要のない移植医療を行うことができるようになると考えられている。倫理的問題の解決が必要ではあるが、今後の研究進展に大きな期待が寄せられている。
しかしながら、これらの先進的技術においては常に想定外の現象が生じることが多々あること、先進的であるがゆえに客観的評価法の確立が遅れていること、が問題となっている。研究のさらなる進展には、先進的医療に対する客観的評価法の確立が不可欠といえる。
移植された細胞が望ましい場所に生着し機能化しているかどうかを評価することは非常にむずかしい。実験動物レベルでは解剖や生検などの侵襲的手法も可能であるが、臨床検討では生検すら大きな制限を伴う。また再生医療では、「失われた機能を残された生存期間全体にわたって維持する」という目的から考えると、長期間にわたっての反復モニタリングが必要となる。したがって、移植細胞の生着の有無ならびに部位あるいは機能を評価する非侵襲的手法が望まれる。
ポジトロンCT(PET)は、生体内における生理、生化学、薬理学的現象を高比放射能標識分子プローブを用いて検出、画像化する装置であり、分子イメージング研究の重要な部分を占める技術である。この特性は、再生医療における非侵襲的モニタリングの目的に含致しており、PETによる移植細胞追跡技術の確立は非常に有意義と考えられる。また、細胞を標識するために導入されるレポーター遺伝子技術を遺伝子治療モニタリング等に用いることも可能であり、派生技術として期待が持たれる(4)。
同時に、レポーター遺伝子産物を検出するためのPET用分子プローブの開発が行われる必要がある。PET用分子プローブは、レポーター遺伝子産物に対して選択的親和性を有するのみでなく、製造が容易で原料も入手しやすく、また人体へのt適用が前提となることから安全性の点でも注意が必要となる(1)、(2)(3)。
これとは別に、サイクロトロンや放射線管理区域などを必要としない磁気共鳴画像法(MRI)によるモニタリングにも興味がもたれる。MRIでは、水プロトン信号に影響を与える金属系造影剤が有用と考えられる。PETに比較して高い分解能を有する一方で高濃度の造影剤が必要となる点に注意が必要である。MRI造影効果がある金属イオンとしてMnがあるが、興味あることに、Mnはドパミン産生細胞が集中する線条体に高集積することが知られており、線条体機能を評価する上で有用と考えられる。またMnは局所投与した際にはCaの類似金属イオンとして周辺神経に集積するため、神経経路の追跡にも有用と考えられることから、Mnによるモニタリングの可能性に期待が持たれる(4)。
本研究では、再生医療における非侵襲的モニタリングの可能性を明らかにすることを目的として、PET、MRIを含めた画像診断技術と分子生物学の融合に関する基礎的検討を行うこととした。

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