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平成11年度事業開始
愛知県・名古屋市 「循環型環境都市構築のための基盤技術開発(別冊)」
  pp.364-379
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里山の環境・水文学的機能の評価手法の開発
朴 昊澤1)
1) (財)科学技術交流財団
Abstract  里山は都市-森林との循環系におけるインタフェースとして、水循環に深くかかわっている。広域に分布している里山は、地表面に入射する太陽エネルギーの多くの部分を蒸発散に消費して地表面の熱環境を緩和すると同時に、蒸発散により大量の水を循環させている。また、光合成により太陽エネルギーを物質に変換し、地域的物質循環にも大きく影響している。しかし、里山流域内における水・物質循環過程は、気象・立地などの環境条件と樹種や群落構造などの森林条件に大きく依存する。特に森林管理と密接に関わる森林構造の時空間的な変化すなわちその特異性は、里山流域の降雨配分と放射環境を制御し、植生の成長や林内の水及び気象環境の形成に大きく影響する。したがって、里山の体表的樹種である広葉樹二次林の流域を対象に水量と水質を長期的・連続的にモニターすることにより、水・物質循環の実態を解明するとともに、森林条件の違いが水・物質循環に及ぼす影響を定量的に評価する。特に、土壌-植生-大気連続系における各因子の系間での相互依存性や日・季節変化などの時間的応答特性の解析は、水・物質の輸送モデルの構築ならびに適正な森林管理技術の開発に不可欠である。一方、森林に取り込まれた放射量は熱エネルギーとして潜熱、顕熱、地中熱、光合成に変換・利用される。この熱収支のあり方により森林の微気象環境、ときには地域気象環境が決まる。そのため、里山林において熱収支を計測し、里山林のエアコンディショナーあるいはラジエータとしての機能を定量的に評価するとともに、林型と機能との関係を評価する。里山流域における水循環特性を解明し、環境影響物質の適正管理の観点から、これらの流域に適した森林管理あり方やそれを支える施業技術の開発に資する。そのため、(1)森林条件の違いが降雨配分特性や環境影響物質の動態に及ぼす影響を定量的に評価し、そのモデル化を進める、(2)都市-里山循環系における水循環プロセスの時空間的変動を検知し、その影響を評価するモニタリングシステムを構築する、(3)水循環の観点からみた都市-里山循環系における里山の役割やそのあり方を評価することを研究目的にする。水・物質循環に対する多くのデータが蓄積されている奥山と異なり、研究の例が極めて少ない里山において、従来のような水、大気といった個別的対応を中心にした部分的な研究ではなく、諸研究分野と連帯した総合的研究システムを構築した上、森林、土壌及び気象に関する流域の基盤的環境情報の収集を始め、環境影響物質の輸送媒体としての水の収支と動態すなわち水循環特性を多角的に観測・解析した。さらに、里山周辺域の二次的自然は、本来周辺域の文化、社会、経済活動などの帰結として形成された側面が極めて大きいことから、単に里山流域のみのスポット的な研究にとどまらず、周辺域の環境や構造を踏み込んだ広域スケールに発展させ、そこでの相互関係や里山の機能の全体象を明らかにする研究への発展が本研究の特徴である。

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