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平成10年度事業開始
山形県 「遺伝子工学と生命活動センシングの複合技術による食材と生物材料の創生」
  pp.153-167
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環境ストレス制御による機能性食材開発のための分光計測·画像化及び局所計測技術
鈴木 洋介1), 多田 美香2), 白石 卓夫2), 尾形 健明3), 大矢 博昭4), 上野 智子, 野田 博行, 伊東 治, 青山 正明
1) キーコム株式会社
2) (財)山形県企業振興公社
3) 山形大学工学部
4) (財)山形県企業振興公社生物ラジカル研
Abstract  i マルチバンドESR計測を中心とした生体内活性分子種計測法の確立と実用化
研究
電子スピン共鳴(ESR)法は、病気やストレスの原因である活性酸素種の検出に有用であり、医学·薬学分野の研究に不可欠な測定法である。しかし、できるだけ少量のサンプルで高感度に検出したい、又は検出した生物ラジカルの種類や存在状態についてより多くの情報を得たいという要望が常にあり、新しいESR法の開発が望まれている。ESR装置の性能は、原理的には使用する電磁波周波数と磁場強度で決まり、高周波·高磁場化した方が、高感度·高分解能が期待できる。そこで、本研究課題では、ESRの高感度·高分解能化を目指し、高周波·高磁場ESRとしてWバンドでのESR装置の開発を行う。
ここでWバンドESRの電磁波周波数及び磁場強度はそれぞれ94GHz及び3300mTであり、共に通常のESRで使われるXバンドでの値の10倍である。Wバンドは、他の高周波電磁波と比べ、水の吸収による損失が少ないという特長があり、水分を含む生体試料の測定に適している。この理由から開発対象としてWバンドESRを選んだ。さらに本研究課題では、WバンドESR装置及び計測法の開発に加え、WバンドESR測定にこれまで実用化されているLバンド、XバンドESR測定を組み合わせた新しい計測法—マルチバンドESR計測法—の開発も目指す。
ii 植物のストレス耐性能を評価するためのin vivo ESR計測法の実用化研究
本研究の主軸となるin vivo ESR計測法は、生体試料を生きたまま(in vivo)の状態で、体内の酸化還元状態の観測ができる唯一の手法である。我々は、局部検出用の表面コイル型共振器(surface-coil type resonator; SCR)を備えた生体計測用700MHz-ESR装置を用いて、植物·動物に与えたスピンプローブ剤のESR信号を検出し、ストレスや抗酸化成分に対する酸化還元系での応答を捉えることに成功した。本研究では、植物のストレス耐性能を評価する計測系、および、食品の機能性成分の評価法を提供することによって、環境ストレスに強い作物や、機能性食材の栽培·育種を支援することを目的とする。特に、農学·工学を融合させた“植物計測用のSCRによるin vivo ESR計測法の実用化”をねらい、“植物のin vivo ESR計測によって、如何に有効な情報を取得できるか”という視点から試験的な研究を繰り返す。まず、県立園芸試験場と連携し、栽培·育種の立場から計測データの有効性を検証する。酸化的損傷の度合いを判断する指標を確定し、ストレス耐性能の評価、および、障害発生機構の把握に役立つ計測法を確立する。山形大学工学部で開発された可搬型ESR装置を圃地内の温室に設置し、栽培現場での計測試験を実施する。以上の結果を統合して、in vivo ESR計測法の実用化へ展開する。
iii 植物の発芽、生長、ストレス耐性及び機能性成分等に与える活性分子種の影響の解明とその評価技術の確立
これまでの研究から、過酸化水素が植物の発芽や生長の促進、抗酸化成分の増大等に影響を与えることが明らかとなってきた。また最近の研究では、活性酸素消去酵素(SODやカタラーゼ、ペルオキシダーゼなど)遺伝子を導入したトランスジェニック植物が種々のストレス(塩、強光、低温など)に対して耐性を有することが報告されている。また、これらの上流に位置する転写調節因子遺伝子の発現増強によってもストレス耐性が誘導されることが明らかにされた。そこで、活性酸素消去酵素遺伝子の発現を誘導すると考えられる活性分子種として過酸化水素を選択し、その稲などの発芽や生長、酵素誘導に対する影響を明らかにし、その評価法を確立する

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