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平成9年度事業開始
福岡県 「新光・電子デバイス技術基盤の確立 −新光・電子デバイスの開発による計測・制御・情報技術の創成−(別添)」
  480-500
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高機能の光変換素子の開発
有機材料による光電変換素子の高機能化と新規応用開発

金藤 敬一1), 高嶋 授1)
1) 九州工業大学
Abstract  有機材料はこれまで効率や応答速度、耐久性など無機半導体を凌ぐ電子デバイスの材料として実用化は難しいと考えられてきた。しかし、有機材料は大面積の発光素子(OLED)、低コストの太陽電池、フレキシブルな透明薄膜トランジスタなど無機半導体では実現できない新しい概念の電子材料として一部実用化が始まり注目を集めている。例えば、生体が有機材料で構成され、葉緑素による光合成はそのエネルギー変換効率が100%に近く環境に低負荷であることを考えると、こうした生体系のメカニズムを光電変換デバイスに模倣することは大変意義深いことである。欧米の先進国は勿論のこと、韓国、中国、インドなど国家を上げて有機材料による電子デバイスの研究が取り込まれており、電子産業に国の経済基盤を置く我が国においても早急に取り組まなければならない重要な研究テーマである。
有機材料による高機能の電子デバイスの本格的な実用化にはまだ課題は多い。例えば、有機材料を用いて光電変換デバイスを作成することによって、容易に光起電力効果を観測することができるが、実用レベルに変換効率を高めることは容易ではない。また、有機薄膜トランジスタなどでもスイッチングや増幅作用は見られるものの、その増幅率や応答速度の面で現段階では実用レベルには至っていないのが現状である。こうした電子デバイスの性能は、一つには電荷を運ぶキャリアーの移動度によって決まるが、有機材料の移動度は無機半導体に戟べると格段に低い。移動度は材料の分子構造や凝集構造(結晶性)に大きく依存し、無機材料では共有結合と高い結晶性により高い移動度を有するが、有機材料では分子構成の多様さと共に、分子間結合の複雑が加わり、分子凝集構造を高度に制御して秩序化することは難しいためである。例えば、シリコンなどの無機半導体では移動度が数千cm2/Vsに対して、アントラセンなどの低分子量の有機結晶ではキャリアー移動度が数cm2/Vs程度で高分子材料ではたかだか10-4 cm2/Vs程度である。しかし、導電性高分子のポリへキシルチオフェンでは、個々の分子の立体用則性を高め凝集過程で結晶性を上げることによって移動度が1〜2桁上昇できることが判り、アモルファスシリコンに並ぶ移動度の材料が実現できることが明らかになった。さらに、電子素子作成上の問題点として光起電力効果を引き起こす接合界面の基本的なエネルギー構造や電子状態が十分に埋解されていない点が挙げられる。勿論これまで確立されてきた無機半導体による光電変換素子のモデルがある程度応用できるが、詳細に至っては全く異なった体系で基礎的な概念から考え直さなければならない。例えば、グレッツエッルによる色素増感型太陽電池は、新しい概念の接合界面を用いる太陽電池としてシリコンアモルファス太陽電池を凌ぐ変換効率が得られている。このように、有機材料による電子デバイスはその機能を発現する仕組みを基本的な立場に立ち戻って十分に吟味し、従来からの考え方に束縛されないモデル化と、最新の材料開発技術を協調的に展開することにより、よりデバイス性能や材料特性をより実用的レベルにまで高めることが可能である。
本研究では有機材料、特に導電性高分子を用いた光電変換素子について光キャリアーの生成と移動度を決定する要因を詳細に探りその機能向上および新規応用に関する研究を行った。

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