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第1回公開シンポジウム予稿集「資源環境・エネルギーミニマム型システム技術」  30-32
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プロトプラストが生合成するカロース繊維の高次構造形成
近藤 哲男1)
1) 森林総合研究所
植物細胞中においてカルシウムイオン (Ca2+) の役割は重要と考えられているが、これまでのところ植物生理分野においての知見が主である。すなわち『Ca2+は主として細胞壁が細胞質などのアポプラスト間隙の部分にイオン吸着されて存在し、細胞質内への取り込み速度が小さく、濃度も低い。細胞はむしろCa2+レベルを低く保っている』とされている。しかし、細胞壁形成などの二次代謝のCa2+の影響については、あまり研究されていない。
本研究方針である、低エネルギー型高次構造形成としての天然高分子高次構造形成のシステムを解明し、それから人工システム化を開発することを考えると、この植物体におけるCa2+の二次代謝(細胞壁形成)への影響を調べることは極めて重要である。そこで、本研究ではまず、Ca2+のみならず他の二価のイオンとしてMg2+との比較をしながら、従来からの研究で用いられた添加量よりはるかに多量の添加条件下で、プロトプラストがどのような二次代謝挙動を示すかを検討した。その結果、樹木プロトプラストが大過剰のCa2+存在下で、約2ヶ月の誘導期間を経た後、繊維状物質を生産し始めることを見出した。しかも、この現象はCa2+の存在下において顕著にあらわれる特異的現象で、他のイオンにはみられないものであることも併せて明らかとなった。これは、一種の低エネルギー型の高分子生産システムとして考えられるため、さらに現象そのものを解明することにより、システム化が可能ではないかと期待できる。
また、生合成された繊維は、β-1,3グルカン鎖であるカロースからなる、数ミクロン幅の巨大繊維(ミクロフィブリルとして)であることが判明した。一方、プロトプラストが繊維物質を生産するのに、高Ca2+濃度下では約2ヶ月という長期誘導期間を要したため、さらにその生産促進条件を検討し、二酸化炭素により誘導期間がかなり短縮されることを明らかにした。

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