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平成13年度シンポジウム 分子複合系の構築と機能  90-90
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水溶液からの水素または酸素生成に活性な可視光応答性光触媒の開発
工藤 昭彦1)
1) 東京理科大学
太陽光に豊富に含まれる可視光を使って水を分解するには, それに適したバンド構造を持つ半導体材料を開発しなくてはならない. d0またはd10の電子配置を持つ金属酸化物半導体において, その伝導帯は,金属イオンのLUMO軌道からなる.一方, その価電子帯は多くの場合O2p軌道からなる. この価電子帯は水の酸化電位(1.23V vs. NHE)よりかなり深いポテンシャル(約3eV)を持っている. そのため,水を還元できるポテンシャルを有する伝導帯を持つ酸化物半導体では, バンドギャップが必然的に大きくなってしまう. したがって, 伝導帯のポテンシャルを落とさずにバンドギャップを小さくするには, O2pに代わる軌道で, それよりも浅い準位に価電子帯またはそれに準ずるドナー準位を形成することが不可欠である. 本研究では, まず, 価電子帯を形成できると期待されるBi3+とAg+からなる酸化物に着目した. その結果, scheelite(monoclinic)構造を持つBiVO4とペロブスカイト構造を持つAgNbO3が, 可視光照射下(λ>420nm)での硝酸銀水溶液からの酸素生成反応に高活性を示すことを見いだした. 特に, BiVO4では, 450nmにおいて9%の量子収率が得られた. BiVO4とAgNbO3は可視光領域に鋭い吸収端を持ち, それらのバンドギャップは, それぞれ2.4,2.86eVと見積もられた. このBiVO4やAgNbO3では, Bi6sやAg4dがO2pと混成し価電子帯を正側にシフトさせ, その結果バンドギャップが小さくなり、可視光応答性が現れたものと考えられる. 次に, ドーピングによる可視光応答化のためのホストマテリアルとして, SrTiO3やZnSに着目した. 種々の金属イオンをドーピングしたSrTiO4の可視光照射下での光触媒活性を調べた結果, Cr3+とTa5+またはSb5+を共ドープしたSrTiO3が, Pt助触媒存在下, メタノール水溶液からの水素生成反応に活性を示すことを見いだした. 一方, Cr3+とSb5+を共ドープしたTiO2が, 硝酸銀水溶液からの酸素生成反応に活性を示すことを見いだした. これらの系で, Cr3+はドナー準位形成による可視光応答化, Ta5+とSb5+は電荷補償の役割をしていると考えられる. 一方, CuやNiをドープしたZnSが,可視光照射下でK2SO3水溶液から比較的効率良く水素を生成した。これらの触媒は良く知られたPt/CdSとは異なり, 白金のような助触媒を担持しなくても, このような活性を示したことは特筆すべきである。拡散反射スペクトルから, Zn0.957Cu0.043SとZn0.999Ni0.001Sのスペクトルの吸収端は, ZnSの基礎吸収に加えて,急ではないが480nmと540nm付近の可視光領域にまで達しており, そのエネルギーギャップはそれぞれ2.5eVと2.3eVと見積もられた。この拡散反射スペクトルの形は, ドープされたCuやNiが新たな準位を形成していることを示唆している。このことに加えて, 助触媒がなくても高い水素生成能を有することから,この可視光吸収バンドは, ドーピングされたCuやNiが形成するドナー準位とZnSの伝導帯間の遷移によると考えられる。

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