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平成13年度シンポジウム 分子複合系の構築と機能  40-40
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主鎖·側鎖·溶媒が織りなす微妙なポリシランらせん構造の規制
寺本 明夫1), 寺尾 憲2), 佐藤 尚弘3), 藤木 道也4)
1) 立命館大
2) 群馬大
3) 大阪大
4) NTT物性科学基礎研
ポリシランは溶液中ではらせん高分子で、らせん構造は主として主鎖の平面性と主鎖·側鎖間の相互作用で安定化されている。らせん構造は温度や溶媒により右らせん←→左らせんの転移を示す。我々はこの転移が著しく分子量に依存し、ポリシランは典型的な一次元協同系であることを見出した。しかし安定化の定量的な目安·構造との関係はさだかでない。そこで本研究ではCD·UV測定から求めた転移曲線を一次元協同系の統計力学理論で解析し、転移の分子機構を明らかにするとともに、らせん構造の安定性の因子を求め、主鎖·側鎖·溶媒の構造との関係を明らかにする。実験には次のキラルポリシランを用いた(図1)。PRS1·PH2MBSは剛直なほぼ棒状の高分子であるのに対して、PH3MPSはローカルには棒状であるが、分子全体としては屈曲性である1)。またPRS1とPH3MPSは温度転移を示すが、PH2MBSはそうではない。転移はKuhn’s dissymmetry ratio gabs(=Δε/ε)で測定される。PH3MPSの場合gabsは正で温度上昇につれ単調に減少するが2)、PRS1では3°C付近(転移点)で急激に減少し符号が逆転する(図2)3)。またいずれの場合も転移曲線は著しく分子量に依存する。これらのデータはポリシラン分子が右らせんと左らせんが交互にらせん反転部を介して連なるというらせん反転モデルで理論的に説明される。らせんの安定性は主鎖のSi-Si結合の内部回転が二重の井戸型ポテンシアルで決まると結論され、転移温度の溶媒依存性も溶媒分子と主鎖のらせん溝との化学構造に由来する相互作用で説明される。らせん反転自由エネルギーは左右らせんの自由エネルギー差よりはるかに大きくらせん反転も転移に重要な役割を占めている。これらの理論解析はポリシランのみならず、他のらせん高分子にも適用出来よう。また実験のみでなく理論を援用することで、分子論的な理解とともにらせん性の予測、分子設計にも新しい道が開けると思われる。

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