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平成13年度シンポジウム 分子複合系の構築と機能  27-32
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高分子時空構造の自己制御
スイッチング·リズム·時間発展

吉川 研一1)
1) 京都大学大学院理学研究科
近代科学は、ビルや橋梁等の巨大な構造物、飛行機や自動車などの輸送手段、肥料や農薬を活用する食物生産方式、高品質·高耐久性の化学製品など、豊かな現代生活に欠かせないものを造りあげてきた。それらは、巨大さ、速さ、丈夫さ、効率などの点で、すでに生物の能力を凌駕したものとなっている。しかしながら、21世紀を迎え、“自然を征服”する科学技術から、“自然と調和”した科学技術へと、その発展方向を転換させることの必然性が明かとなりつつある。一方で、地球上の生物には、数十億年の長きに渡る進化のなかで獲得してきた叡智が刻み込まれている。生命の叡智を学ぶことにより、人類はその未来を切り開いていかなければならない由縁である。
近年の分子生物学の著しい発展に伴い、生命体を構成する数多くの分子の構造が明らかになりつつある。さらに、「構造生物学」の名のもと、蛋白質などの“生命の部品”の巧妙な機能が、分子の構造論により解き明かされようとして来ている。しかしながら、生命の謎を、数々の部品に関する知識の単純な集積からは明らかにすることは不可能である。部品である生体分子がどのようにして自発的に組織化され、そして動的な機能の発現へとつながるのか、といった視点が不可欠である1,2。各々の分子にはない機能や特質を“分子複合系”で実現する。このような、研究の潮流を作りだすことが求められている。
本研究では、生命の巧妙な機能の中でも、心臓の拍動、神経発火、等温系での運動機関など、時間軸上の現象に注目し、それらの現実空間上のモデルを分子複合系で創り出すことを主な目的としている。換言すると、熱力学的な開放条件下、分子集団が自ら時間的、空間的構造を形成し、そして時間発展する、そのような実験系について研究を進めた。このような研究は、生命の本質的な理解に役立つのみならず、“自然と調和”した科学技術の創造に貢献するものと期待される。

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