TOP > 巻一覧 > 目次一覧 > 書誌事項


戦略的基礎研究推進事業 平成7年度採択研究課題 研究終了報告  713-721
[PDF (67K)] [成果一覧


遺伝子変換マウスによる脳機能の解明
勝木 元也1)
1) 東京大学医科学研究所
脳機能の最も魅力的な研究対象はヒトである。しかし、分子レベルの実験的解析を、ヒトを対象に行うことは不可能である。
そこで、ヒトの脳機能に関与することが既に知られているグルタミン酸受容体を始め、ドパミンやセロトニンの受容体遺伝子を破壊またはヒト型に変換したマウスを作り、これらのマウスの解析を通してヒトに外挿出来る脳機能モデルの創造を目的に研究を行った。
グルタミン酸受容体のうちNMDA受容体NR1,NR2A,NR2BおよびmGluR1の遺伝子を破壊したノックアウトマウスを作製した。
また、我々は、細胞の増殖と分化に重要な役割があるとされている癌遺伝子H-rasが、脳の神経細胞で最もよく発現していることを見出したことから、そのノックアウトマウスを作製し、H-ras遺伝子の脳での役割を解析した。その結果、H-rasノックアウトマウスでは、海馬での長期増強(LTP)が亢進しており、NR2AおよびNR2Bのチロシンリン酸化が有意に上昇していることを見出した。さらに、行動解析から、特定の学習に於いては、正常マウスより良い成績であることが認められた。これは、癌遺伝子として知られているH-rasが、海馬におけるシナプス可塑性に関与していることを明らかにしたもので、NMDA受容体のチロシンリン酸化がRasを介したシグナル伝達経路によって制御されていることを示した最初の知見である。

[PDF (67K)] [成果一覧

Copyright (c) 2002 科学技術振興事業団