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戦略的基礎研究推進事業 平成7年度採択研究課題 研究終了報告  537-547
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超高純度ベースメタルの科学
安彦 兼次1)
1) 東北大学金属材料研究所
人類文明は金属材料の発展とともに進歩してきた。人類は、古代に青銅や鉄を作る方法を見つけ、より優れた金属材料を少しでも多く作るさまざまな技術開発を続け、文明進歩を支えてきた。例えば、18世紀、ヨーロッパに起こった産業革命を支えたのは鉄鋼材料をはじめとする金属材料の大量生産であった。20世紀、物質文明の進歩を支えたのもさまざまな金属材料の高性能化であった。このような金属材料の発展はその高純度化(精錬精製)と組織制御によって達成されてきたといっても過言ではない。
我国における鉄鋼産業の近代化は、1901年に作られた溶鉱炉が出発点であり、戦後のL·D転炉導入によって製鋼速度が一気に向上した。例えば、かつて炭素は鉄鋼中には必要不可欠なる元素であったが、近年、我が国では、炭素を20ppm程度にまで低減し、さらに、チタンやニオブなどを添加してマトリクッス中の固溶炭素量を1ppm程度に低減した後、適切な熱処理を施して{111}集合組織を発達させた世界トップクラスの高性能を有する深絞り用鋼鈑が製造されている。その鋼板は厚さ0.5mmでも優れた深絞り性を有し、軽量、頑強、そして空気抵抗の小さい自動車ボディを一体深絞り整形が可能なため、鉄やガソリン資源の節約という観点からも世界の自動車産業の発展に大きく貢献している。
また、耐食性や耐熱性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼SUS304は、30年前には殆ど実用されていない金属材料であった。ところが、近年、AODやVODなどの導入と精鋼法の開発によって、含まれる炭素、窒素、酸素、イオウなどのガス成分不純物元素量をそれぞれ数10ppm以下と、それまでの10分の1以下にまで低減されるようになった。その結果、SUS304の加工性が著しく改善され、現在では各種産業においては勿論、家庭の流し台からバスタブにまで幅広く利用されるようになった。
このように、今日まで、ベースメタルは高純度化(精錬精製)と組織制御の技術開発により高性能化され、基盤産業の発展を支えるさまざまな要求に応じてきた。今、21世紀文明の発展のため、例えばエネルギー産業などの最先端産業において、「ベースメタル特性の飛躍」が強く望まれている。では、そのような革新的ベースメタルはどうすれば発見できるのだろうか。それは、当然、世界各国のベースメタル研究者の強い関心課題であるが、従来の開発法はすでに限界に達しており、その延長からの達成は容易でない。
一方、ベースメタルを超高純度化すると、常識とされている性質とは全く異なる特性が発現することが知られている。明らかにされたその特性自体も重要であるが、ベースメタルには予想できない特性がなお潜んでいることを理解することこそ極めて意義深いことである。そこに「ベースメタル特性の飛躍」の糸口が秘められているからである。

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