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戦略的基礎研究推進事業 平成7年度採択研究課題 研究終了報告  227-239
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昆虫の生体防御分子機構とその応用
名取 俊二1)
1) 理化学研究所
この研究は研究代表者が東京大学薬学部に在任中行っていた「センチニクバエの生体防御機構に関する研究」の成果をもとに立案したもので、当初提出した提案書には、昆虫の自己と非自己の識別機構、新規生理活性物質5-S-GADおよび抗菌蛋白sapecin B由来の抗菌ペプチドの3項目に焦点を絞って、創薬を意識した基礎研究を実施すると記載されている。研究が終了した時点で振り返ってみると、ほぼこの提案に沿った形で研究が進行したと言える。
当初提出した3項目の研究提案の背景を若干述べておきたい。まず「昆虫の自己と非自己の識別機構」というテーマであるが、センチニクバエは完全変態昆虫であり、蛹の時期には幼虫から成虫へと組織の交替が起きる。例えば、幼虫の体内で最もよく発達している脂肪体(哺乳動物の肝臓と腎臓の機能を併せ持つ)は崩壊し、新しく成虫の脂肪体が発生する。脂肪体の崩壊過程をよく調べてみると、実は蛹の体液細胞(哺乳動物の白血球に相当)が脂肪体組織に取りついてcathepsin Bを放出し、その結果組織を包んでいる基底膜が壊され、組織が崩壊することが分かった。幼虫の時にも体液細胞はあるが、幼虫の体液細胞は脂肪体に取りつくようなことはない。この事実を見て思いついたのが、幼虫の体液細胞と蛹の体液細胞では、自己と非自己の認識が異なるのではないかという考えであった。すなわち、幼虫の時期には体液細胞にとって自己であった脂肪体組織が、蛹の時期には非自己として認識されることになる。この認識転換の分子機構機構の中に‘自己と非自己の識別’という免疫の基本原理を理解する鍵があるという思いが強くなり、このテーマを取り上げることにした。

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