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「生体防御のメカニズム」平成8年度採択課題終了シンポジウム  4-5
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「環境中の前立腺ならびに肝発がん物質の検出モデルとしてのトランスジェニックラットの確立」
白井 智之1)
1) 名古屋市立大学医学部
日本でも近年増加傾向が著しい前立腺癌の原因、悪性化要因、治療法、予防法は充分には確立されていない。化学発がん物質を用いたラット実験モデルは一年以上の期間が必要など、モデルとしての有用性はあるものの、短所もある。またすでにトランスジェニックマウスに前立腺癌モデルが存在するが、ラットの方が個体が大きく、充分な組織材料が得られることと、化学発がん物質などによる豊富な蓄積されたデーターが存在することから、ラットの前立腺発がんトランスジェニックモデルの作成を試みた。RBおよびp53遺伝子を機能的に不活化し、多くの臓器で発がん作用があることが知られているSV40 T抗原を前立腺組織で特異的に発現させるために、probasinの遺伝子をプロモーターとして、SV40 T抗原遺伝子をSprague-Dawleyラットの受精卵の雄性前核に微小注入した。その結果、対立遺伝子の一方に遺伝子が導入されたトランスジェニックラットを得た。このラットは5週令頃から前立腺(腹葉、側葉,背葉、前葉)に異型上皮からなる増殖病変が広範囲にみられるようになり、15週令では全例に腺癌の発生を認めた。高濃度のテストステロンを投与すると前立腺癌の発育は高度に促進されることが判明したが、前立腺外への浸潤は認められていない。またテストステロン投与後あるいは非投与ラットを去勢すると、速やかに癌組織の全体にアポトーシスによる腫瘍組織の退縮が発生し、3週間後には腫瘍は全く消失し、この腫瘍がアンドロゲン依存性であることが判明した。退縮過程ではandrogen receptorの発現やSV40T抗原の発現が早期に激減すること、それとは逆にTRPM-2, MMP7, Caspase 3, Caspase 6, BAX, Bcl-x遺伝子の発現が上昇することを認めた。このトランスジェニックラットに前立腺発がん物質である2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo [4,5-b] pyridine (PhIP), 3,2'-dimethyl-4-aminobiphenyl (DMAB), N-methylnitrosourea (MNU)をそれぞれ短期間に投与したが、前立腺癌の発生進展は認めなかった。現在欧米で多い臨床型前立腺癌に関与していると推察される食事性PhIPの長期連続投与を行い、ラット前立腺癌発生に対する修飾作用を検討中である。

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