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「脳を知る」・「脳を守る」合同シンポジウム要旨 脳の機能とその異常  3-3
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脳における脂質メディエーターの機能
—生理と病理—

清水 孝雄1)
1) 東京大学大学院医学系研究科
プロスタグランディン、ロイコトリエン、血小板活性化因子(PAF)などの脂質メディエーターは生体防御、ホメオスターシスの維持に深くかかわっている。孤児受容体のリガンドの多くは脂質分子と考えられており、脂質メディエーターはポストゲノム時代の標的分子の一つと考えられている。脂質メディエーターは他の伝達物質やホルモンと異なり、分泌顆粒内には貯蔵されず、刺激に応じて新たに生合成され、産生後は速やかに放出されて、標的細胞の受容体に結合する。受容体結合後は酵素的に不活性化され、再利用されない。従って、脂質メディエーターの機能解析には代謝酵素の分布や局在変化、活性制御の研究が必須である。脳は脂質の宝庫と言われながら、これら脂質メディエーターの神経系での役割は必ずしも明らかではない。本研究ではそれらを明らかにするため、分子、細胞、個体のそれぞれの階層で詳細な解析を進めている。分子レベルでは、脂質メディエーターの受容体や産生酵素を新たに発見·単離し、それらの性質の解析を進めている。
また、培養細胞に酵素—GFP融合タンパクを発現させ、経時的に調べると脂質メディエーター産生酵素はカルシウム刺激やストレス応答で細胞内の局在を劇的に変化させることが明らかとなった。機能解析の目的で酵素や受容体の脳内局在を明らかにすると共に、いくつかの遺伝子欠損マウスを樹立し、交配の繰り返しにより遺伝的純化を行った。それらのマウスの表現型の解析から、脂質メディエーターは生体防御反応、神経伝達、生殖などに関与し、また、実験的アレルギー性能炎やARDSなどを初めとする種々の病態の発症と進行に深くかかわっていることが明らかとなった。また、歯状回特異的新規ホスホリパーゼA2は細胞質型ホスホリパーゼA2の一部でありながら、ノックアウトマウスでも誘導されるという予想外の事実も明らかとなった。

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