TOP > 巻一覧 > 目次一覧 > 書誌事項


「脳を知る」・「脳を守る」合同シンポジウム要旨 脳の機能とその異常  12-12
[Image PDF (42K)


ER機能を異常起源とする神経細胞死
(アルツハイマー病·脳虚血による痴呆克服をめざして)

遠山 正彌1)
1) 大阪大学大学院医学系研究科ポストゲノム疾患解析学講座
高齢化社会を向かえた現在、アルツハイマー病(AD)や脳虚血による痴呆は大きな社会問題となり、克服すべき緊急課題である。ADや脳虚血による痴呆は当然神経細胞死がその起点となっており、それに基づく神経細胞死を克服するには神経細胞死の分子機序の解明が不可欠である。我々はADにおける神経細胞死が家族性にせよ孤発性にせよ小胞体に存在し不良蛋白の処理に当たるストレスセンサーのリン酸化が抑制され、機能不全となる結果不良蛋白が小胞体内に充満し小胞体の構造的破綻を引き起こし細胞死に至ることを明らかとした。
家族性ADではプレセニリン1変異体が孤発性ADでは全例に発現するエクソン5を欠くプレセニリン2スプライシング変種(PS2V)がストレスセンサーに結合してそのリン酸化を阻害する。従ってストレスセンサーのリン酸化制御が可能となればADにおける神経細胞死を防ぎうる。また孤発性ではPS2Vの発現制御が痴呆の克服の鍵であり、すでにPS2Vを発現制御するX因子の同定にも成功している。また脳虚血による神経細胞死では虚血耐性をしめすアストロサイトに特異的に発現する新規ストレス蛋白ORP150は小胞体に局在しその発現が抑制されると虚血耐性は消失する。また虚血に脆弱でORP150の発現が弱い神経細胞にORP150を強制発現させると神経細胞は虚血耐性となり、TGマウスでもこの事実は確認できた。以上の結果はORP150の発現制御が可能となれば脳虚血による神経細胞死を防ぎうる可能性を示す。以上の成果より、我々は脳虚血とADにおける痴呆の克服にブレイクスルーをもたらしつつあると確信している。

[Image PDF (42K)

Copyright (c) 2002 科学技術振興事業団