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「脳を知る」・「脳を守る」合同シンポジウム要旨 脳の機能とその異常  10-10
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細胞の増殖と非増殖
神経細胞はなぜ増殖しないか?

中山 敬一1)
1) 九州大学生体防御医学研究所細胞学部門
神経細胞等の多くの増殖能を喪失した細胞では、細胞周期は必ずG1後期(概念上G0と表す)に停止しており、S期に進行する能力を失っている。この細胞周期におけるG1-S期移行は、細胞の増殖と分化を決定する上で最も重要な点の一つであり、正の制御因子サイクリンEと負の制御因子p27によって調節されている。サイクリンEもp27もユビキチン依存性蛋白分解によってその発現量が調節されている。私達はF-boxタンパク質であるSkp2がサイクリンEやp27に結合し、ユビキチン化を促進して分解に導くことを見出した。Skp2はSkp2·Skp1·Cul1·Rbx1から構成されるSCF複合体型ユビキチンリガーゼ(SCF/Skp2)の基質認識コンポーネントである。私達はこの複合体の生理的役割を調べるために、Skp1、Cul1、Skp2のノックアウトマウスを作製した。Skp1-/-とCul1-/-は胎生6.5日で致死となり、細胞内にはサイクリンEの過剰蓄積を認めた。Skp2ノックアウトマウスは生存可能であるが、成長が遅延しており、細胞内に多量のサイクリンEとp27の蓄積を認めた。さらにサイクリンEの周期的変動が失われて、持続的高発現状態になっていた。Skp2-/-細胞では核が巨大化して多倍数体化しており、中心体の過剰複製が認められた。次に私達はSkp2/p27ダブルノックアウトマウスを作製して、サイクリンEの過剰発現のみが起こる状態を作り出した。驚いたことにSkp2/p27ダブルノックアウトマウスでは、染色体多倍体化や中心体過剰複製等の細胞学的異常は全て消失した。これらのことから、単にサイクリンEの過剰だけでは染色体多倍体化や中心体過剰複製等の異常は起こらず、これらはp27の過剰蓄積に依存していることが結論された。これらの異常は、p27の発現量が正常では低いG2-M期にp27が大量に存在するため、サイクリンB/CDC2活性が抑制されてM期に進行できず、再びS期を繰り返すことにより細胞がendoreduplicationを起こすことが示された。

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