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「脳を知る」・「脳を守る」合同シンポジウム要旨 脳の機能とその異常  1-1
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視覚野の回路網形成における神経栄養因子の関与メカニズム
津本 忠治1)
1) 大阪大学大学院医学系研究科
神経成長因子(Nerve growth factor,NGF)に代表される神経栄養因子は、従来想定されてきた神経細胞の分化、突起伸展、生存維持といった機能の他に、シナプス伝達効率を急速に変える、あるいは神経回路を入力依存的に変化させるという脳の可塑性、ひいては学習や記憶などにも関与していることが、最近になって示唆された。我々は、可塑性に関する知見が集積している大脳皮質視覚野においてin vitro及びin vivoの標本を使用し、神経栄養因子の中でも脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor,BDNF)に的を絞って、その役割や関与メカニズムについて調べている。これらの研究結果はポスターで発表する予定であるので、本講演では主にBDNFの動態についての以下の疑問に対する研究成果について述べる。
BDNFは、NFGとのアナロジーから標的細胞であるシナプス後ニューロンから放出されたシナプス前部に作用すると想定されてきた。しかしながら、実際にBDNFがニューロン間をどのように動くかは全く不明であった。我々は、この疑問にアプローチするためBDNFとGreen Fluorescence Protein(GFP)の融合タンパク質(BDNF-GFP)cDNAを微小ガラス管より培養神経細胞の核内に直接注入し遺伝子導入を行うという方法を採用した。この結果、BDNFは注入後24-48時間で神経細胞内に発現し、その一部は軸索内を順行性に移動することを観察した。また、シナプス後ニューロンにも移行すること、さらにこの移行は神経活動に依存していることを見出した。この知見は従来の標的細胞から出て神経線維終末に作用するという概念の再考を迫るものと考えられる。

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