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各種反応プロセスにおける磁気効果に関する研究
Vol. 1 (2000) p.62
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1) 大腸菌での遺伝子発現における静磁場の影響
松永 是1), 梶原 寛子1), 池畑 政輝1), 川原 祥子1), 竹山 春子1)
1) 東京農工大学 工学部 生命工学科
  近年、10Tほどの強磁場が簡単に利用できるようになり、安全性も含め、磁場の生体作用が注目されている。これまでに、主に物理、化学分野での研究により、このような高磁場下ではほとんどが反磁性である生体物質においてさえ、磁場による様々な影響が観察されることが明らかにされている。0.4Tの静磁場がヘモグロビンの構造に影響を与えることにより、酸素との結合能を10-17%減少させる現象や、他にフィブリンやコラーゲンのような反磁性体物質のポリマーが、その磁気異方性により強磁場中で配向することが報告されている。そのため、磁場の生体影響として、生体内の弱い物質相互作用、例えば遺伝子発現におけるタンパクとDNAの相互作用等において、各々の物質の磁化率の差に起因する磁気力等を介して、磁場が作用する可能性が考えられる。しかしながら、一般に磁場の影響は非常に微弱であると考えられているため、鋭敏で再現性の良い実験系を用いる必要がある。実験材料として微生物を用いた場合、高等生物個体や培養細胞よりも格段に扱いやすく、実験条件をより厳密にコントロールできるという利点がある。これまでに、7Tの磁場曝露により大腸菌の生育における死滅期の遅延や0.16Tの磁場での乳酸菌における酸形成能の増加 が報告されている。一方で3Tの磁場で遺伝子修復機能欠損した大腸菌の生育への影響はないといった報告もある。また、サルモネラ4株と大腸菌1株で変異原性試験をした結果、5T、48時間迄の定常磁場曝露において変異原性は見られなかったが、既知の変異原物質と複合曝露をおこなうと、DNA反応性物質の変異原性の頻度が約2倍上昇したという報告もある。しかしながら磁場の生体への影響についてこれまで多くの報告があるが共通の見解が得られていない。そこで本研究では、遺伝子発現制御系の中でも最も解明が進んでいるラクトースオペロンの制御系に注目し、大腸菌を用いた遺伝子発現制御モデルを構築し、in vivoアッセイにおいてプロモーター活性への静磁場の影響について解析した。さらに、それらの結果をもとに、遺伝子転写開始時のタンパク質とDNAの相互作用に対する磁場の影響を調べ、遺伝子発現における静磁場の影響について解析した。

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