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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 953
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「脳を守る」平成11年度採択研究代表者
「DNAチップによる遺伝性筋疾患の分子病態解明」

荒畑 喜一1)
1) 国立精神·神経センター 部長
Abstract:  超高密度DNAマイクロチップ(DNAチップ)の科学技術革新は、21世紀の疾病研究を切り拓く新戦略である。本研究では“ポストゲノムシークエンス”ないし“機能解析遺伝学”の時代を視野に捉え、DNAチップの疾病研究分野への有用性を確立する。遺伝性筋疾患をモデルとして病因と病態解明の研究を行うが、特に代表的な神経筋難病である筋ジストロフィーについて、未知原因遺伝子や病態修飾因子の探索を含めた疾患関連分子の解明を目指す。これまで限界のあった、膨大な数量の遺伝子発現情報を扱えることがDNAチップの導入によって実現する。その結果、疾患の病型別·個体別·臓器別差異の本態が一気に解明される可能性が浮上してきた。疾病克服にとって最も重要な“分子病態”の解明は、次世代における効果的かつ個別的治療戦略への開発基盤となる。本研究プロジェクトの成否は、いかに優れたcDNAクローンを大量に獲得することができるかにかかっている。プライマーをデザインする時に、一つのクラスターは様々なESTクローンの3’や5’集まりであり、しかも一つの列としてアセンブルされていないことが挙げられる。つまり長い塩基列が得られない場合も多いということが問題になるかと思われるが、我々は3’ のpoly(A)RNAを扱うことで解決する。またBODYMAPの場合、どのライブラリーから得られた遺伝子かがはっきりしているので、筋特異的な遺伝子を見つけるのには好都合である。なおAlu, L1などの繰り返し配列、ミトコンドリア、リボソーマルプロテインとマッチする部分は除去をし、ノイズレベルを極力減少させる努力は重要な問題になる。最終的にはコンピューター制御下で表面処理を施されたガラス基盤上にDNAが1cm2上に5,000クローンスポットされるが、この方面ではDNAチップ研究所と共同研究が進められる。筋サンプルの情報はハイブリダイゼーションの後、高速レーザーScanArray 5000で読み取られる。初年度にあたる平成11年度は既知遺伝子約400クローンをモデルとして、DNAチップの作製に取り組んだ(研究実施内容参照)。将来的には1?2万個揃える計画である。一方、陽性に検出されたスポットデータを、コンピューター画面上でクリックした際に、自動的にcDNAのクローン情報などのデータが導出できるようなソフトの開発にも着手している。具体的には、各遺伝子のUnigeneにおけるHs番号もしくはaccession numberを識別子として、BODYMAPやUnigeneもしくはdbESTのWebにリンクを張り、快適なユーザーインタフェースを作成する事になる。データのプロファイリングと分析が可能なソフトウエア開発には、かなり情報科学的に高度なアルゴリズム設計能力が要求される分野であることから、東京大学大学院理学系研究科·理学部情報科学科研究グループとの共同研究を進めている。なお今後DNAチップ技術の確立の一端として、カリフォルニア大学の研究グループの実施しているAffymetrix超高密度DNAマイクロチップ(12cm2に35,000個のプローブ)による解析データの比較を行う。応用研究として、(1)未知遺伝子および修飾因子の発見努力、(2)薬剤治療の開発と評価等が重要であるが、これらの研究プロジェクトを推進するにあたり、東京大学大学院農学生命科学研究科グループと東京大学·医科学研究所ヒトゲノム解析センターグループとの共同研究を進めている。我々は来るべき21世紀において、我が国の神経筋疾患の研究水準が、国際的に指導的立場を維持·発展させるために、DNAチップ戦略に見る一連の科学技術革新に速やかに対応し、さらに独自に開発して実用化を図って行くものである。これらの成果は国民の知的財産の充実·保護と研究開発システムの強化をもたらすものである。

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