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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 944
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「脳を守る」平成10年度採択研究代表者
「活性酸素による脳·神経細胞の障害とその防御機構」

中別府 雄作1)
1) 九州大学生体防御医学研究所 教授
Abstract:  我々は,ヒトの脳·神経系における活性酸素による細胞障害に対する防御系として,(1)酸化ヌクレオシド三リン酸を特異的に一リン酸に分解·排除する酵素(MTH1)やDNA中の酸化塩基を修復する修復酵素(OGG1,MYH)などDNAの酸化に起因する障害を抑制するシステムと,(2)これらの酵素や細胞増殖·分化·細胞死に関わる遺伝子の発現を酸化ストレスに応答して制御するシステム(Jun/Fos転写制御系)に注目し,その全体像の解明を目指して本研究を進めている。ヒトMTH1遺伝子多型について解析を進め,スプライシングの変化を引き起こす一塩基多型が新たなMTH1タンパク質の合成をもたらすこと,さらに新たなMTH1タンパク質がミトコンドリア移行シグナルを持つことを明らかにした。2つの修復酵素(OGG1,MYH)がヒト細胞の核とミトコンドリアに局在することを示し,さらにその細胞内局在がそれぞれのmRNAの択一的スプライシングで制御される事を明らかにした。ヒトOGG1とMYHタンパク質はミトコンドリア内膜に弱く結合した状態で存在しており,ミトコンドリア内膜に結合しているミトコンドリアDNAの修復を効率良く行う修復装置の存在が示唆される。ヒト脳および脊髄組織における酸化塩基の蓄積とOGG1およびMTH1の発現を解析し,ヒトの脳·神経細胞の障害にDNAの酸化損傷の蓄積,あるいはその修復系の異常が関与する可能性が強く示唆される結果を得た。脳出血や脳梗塞時に見られる脳·神経細胞の活性酸素によるストレス応答に関わるFosBとΔFosBタンパク質の発現と細胞の運命をラット培養細胞系で検討し,FosBとΔFosBが細胞増殖,細胞分化,そして細胞死を制御する能力を持つことを明らかにした。

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