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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 92
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「生命活動のプログラム」平成8年度採択研究代表者
「一方向性反応のプログラミング基盤」

木下 一彦1)
1) 慶應義塾大学理工学部 教授
Abstract:  生命活動の根元を担うのは、たった1分子で機能を発揮する、「分子機械」である。生体内では、種々の素反応が特定の方向に進められることにより生命活動が織りなされるが、これらの反応を進めるのが分子機械である。我々は、これらの分子機械がいったいどのような仕掛けで働くのか、分子内で何が起きているのかを、光学顕微鏡の下で、1分子が働いている現場を直接「見て操作する」ことにより、解明したいと考えている。とくに、生体内で一方向への「動き」ないし「力」を生み出す役目を担う、「分子モーター」の働く仕掛けを探りたい。これまでの研究成果の第一は、ヒトをはじめとしてほとんどあらゆる生き物の中に、分子1個の中でくるくる回転が起きている「回転モーター」があることを証明し、さらにそのモーターの燃料消費(エネルギー変換)効率がなんと100%近いこと、負荷の大きさによらず一定の力を出す仕組みがあること、など従来知られていた分子モーター(リニアーモーター)にない画期的な性質を持つことを見いだしたことである。また、分子機械の観察·操作に、たんぱく質分子に比べて遥かに大きな目印ないしハンドルを結合させることが有効なことを提唱し、F1-ATPaseの逆回転によるATP合成を試みている。大きな目印の有効性の一例として、世界で初めてDNA1分子に結び目を作ることに成功したことはすでに報告した。現在、顕微鏡システムの高機能、高精度化を図りながら、上記の回転モーターの解析をさらに進めるとともに、DNA上を動くリニアーモーターの研究なども始めている。このモーターがDNAのらせんに沿ってすすむ回転モーターの一種であることもわかりはじめている。分子機械の動作原理の解明およびそのための新手法の開発を通じて、新しい学問分野である一分子生理学·一分子工学の先駆けとなることを目指したい。

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