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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 884
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「脳を知る」平成10年度採択研究代表者
「脂質メディエーターのdual receptor系と神経機能」

清水 孝雄1)
1) 東京大学大学院医学系研究科 教授
Abstract:  脳は脂質の宝庫といわれ、実際に多くの脂質が存在し、これから多様な脂質メディエーター(プロスタグランディン、ロイコトリエン、血小板活性化因子など)が産生され、分解されている。脂質メディエーターはペプチドやタンパク性リガンドと異なり、直接遺伝情報で決まるものではないために、ポストゲノム時代の主要な標的分子と考えられ、注目が集まっている。脂質メディエーターは神経伝達物質やホルモンなどと協調しながら、神経伝達やグリア機能の調節、また、神経の発生や分化に関与していると考えられているが、それぞれのメディエーターの役割については不明の点が多い。本研究ではこれら脂質メディエーターの脳における機能を系統的に解明することを目標としている。また、この中で、脂質メディエーターの持つ「デュアル受容体機能」に注目し、他の水溶性リガンドとの作用の違いを明らかにする。「デュアル受容体機能」とは一つのリガンドが脂溶性である特徴を利用し、細胞膜と核内の双方に受容体を持ち、多様性を示すとの仮説である。本研究目的で、現在、三つの方向からのアプローチを進めている。(1)脂質メディエーター合成酵素の分布および細胞内動態の解析、(2)脂質メディエーターの細胞膜、核内受容体の単離と解析、さらに、(3)脂質メディエーターの酵素や受容体の遺伝的改変マウスを用いた脳機能の解析である。現在のところ、脂質メディエーター産生の鍵を握ると思われるホスホリパーゼA2や5-リポキシゲナーゼはCHO細胞に発現するとカルシウム刺激に応じて活性化されるが、その際は細胞質から核膜周囲に移行することが明らかとなり、核内受容体説を支持する結果が見いだされている。他方、エストロジェンなどのホルモンが細胞膜にも受容体を持つ予備的な結果も得られている。さらに、本研究室で世界に先駆けて作成された血小板活性化因子受容体欠損マウス、ホスホリパーゼA2欠損マウスなどの遺伝的純化が進められており、純系マウスを用いた脳機能の形態学及び機能解析の準備が進んでいる。

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