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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 879
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「脳を知る」平成10年度採択研究代表者
「抑制性シナプス可塑性の分子機構の解明とその応用」

小西 史朗1)
1) (株)三菱化学生命科学研究所 室長
Abstract:  脳の働きは、興奮および抑制性シナプスにおける化学物質で仲介される情報伝達によって達成されている。したがってシナプス伝達の仕組みを明らかにできれば、脳に関する理解は著しく深まるであろう。脳の正常な機能および神経疾患において、抑制性シナプスは興奮性シナプスに劣らず重要な役割を果たしている。しかし興奮性シナプスに比べて、抑制性シナプスに関する研究は、技術的困難のため立ち遅れている。本研究は、抑制性シナプス制御機構の分子基盤を明らかにすることを第一の狙いとしている。また、このような研究から得られた成果に基づき、抑制性シナプスの伝達効率を選択的に修飾する薬物を探索し不安·抑鬱などの精神疾患に対する薬物療法の可能性も探ろうとしている。これまで我々は、小脳のGABA作動性抑制性シナプスにおいてモノアミン(セロトニンおよびノルアドレナリン)を含む神経の活動により、GABAシナプスの伝達効率が長時間にわたって増強することを発見した。この成果は、モノアミン系の働きを選択的に修飾する薬物を見出すことができれば、脳の抑制性シナプス活動を高めて一部の神経疾患を治療するための新しい道が開ける可能性を示している。たとえば多くの現代人が抱える不安(神経症)などは、GABAシナプスを増強する薬物(ベンゾジアゼピン·トランキライザー)によって緩和されるので、脳の抑制性シナプス活動は不安に密接に関連した役割を果たすと考えられる。したがって本研究が目的としている抑制性シナプス機構の解明と修飾物質の探索は、神経疾患の薬物療法の考案に貢献できると期待される。現在、GABAシナプス可塑性の分子機構や動物の不安モデルを用いて、不安刺激によって引き起こされるシナプス伝達の変化や不安中枢における物質的変化を電気生理学的·分子生物学的手法によって探索している。また、GABAシナプス増強作用を仲介するモノアミン受容体サブタイプ分子を選択的に刺激する薬物も合わせて探索している。このような研究から得られる成果は、抑制性シナプスの情報伝達がどのように制御されるかについて基礎的な理解を深めるだけでなく、神経疾患を薬物によって治療するための応用面にも寄与できると予想される。

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