TOP > 巻一覧 > 目次一覧 > 書誌事項


平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 851
[PDF (1143K)] [引用文献


「脳を知る」平成8年度採択研究代表者
「脳形成遺伝子と脳高次機能」

三品 昌美1)
1) 東京大学大学院医学系研究科 教授
Abstract:  我々は、記憶·学習の分子機構には神経回路網の形成整備機構が適用されているとの仮説に到達した。本研究は、脳の形成および神経回路網整備を担う分子と記憶·学習との関係を明らかにすることによりこの仮説を検証することを目的としている。脳の形成遺伝子探索系として、欠失変異を引き起こすことが知られているDNA架橋剤4,5’,8-トリメチルソラレン(4,5’,8-trimethylpsoralen、TMP)でゼブラフィッシュの精子を処理すると高頻度に変異を誘発することを見出した。TMP変異法により単離した変異株の中から、視蓋神経叢の形成不全や感覚神経突起の異常伸長を示す神経系の変異株を選び、RDA(representational difference analysis)法を適用して正常ゲノムと変異ゲノム間でサブトラクションを行い、原因遺伝子を直接単離する方法論の開発を進め、脊椎動物のモデル動物であるゼブラフィッシュの遺伝子クローニングと直結した変異法を確立することを目指している。さらに、脳の形成整備遺伝子が脳の高次機能に果たす役割を解析するために、部位時期特異的遺伝子ノックアウト法の開発を進めている。変異プロゲステロン受容体のホルモン結合領域と遺伝子組換え酵素Creリコンビナーゼの融合蛋白遺伝子をNMDA受容体GluRε3遺伝子の5’領域に接続し、C57BL/6系統に導入したトランスジェニックマウスに合成アンチプロゲステロンを投与することにより小脳顆粒細胞特異的にCreリコンビナーゼの活性が誘導されることを見い出した。したがって、小脳顆粒細胞特異的にかつ時期特異的に遺伝子をノックアウトすることが可能となった。また、サブタイプ特異的ノックアウトにより、NMDA型グルタミン酸受容体ε1サブユニットが海馬シナプス可塑性の閾値と文脈依存学習の閾値を決定していることを示し、NMDA受容体ε2サブユニットが情動を制御していることを見い出した。さらに、部位特異的ノックアウトにより、グルタミン酸受容体δ2サブユニットが小脳可塑性と特定の運動学習に必須であることを示した。

[PDF (1143K)] [引用文献

Copyright(c)2000 科学技術振興事業団