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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 839
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「脳を知る」平成8年度採択研究代表者
「神経結合の形成、維持、再編成を制御する分子機構の解明」

藤澤 肇1)
1) 名古屋大学大学院理学研究科 教授
Abstract:  脳機能発現は神経結合の構造的な再編成をも伴う神経結合の可塑的変化に依存している。従って、脳機能の発現機構を理解するためには、神経結合の形成とその維持、精密化、強化、再編成を制御する分子機構の解明が重要である。このような観点にたって、神経線維のガイダンスや神経結合の形成に関与する因子、分子の検索とその機能解析を行った。分子機能解析グループ(研究代表者:藤澤肇、名古屋大学大学院理学研究科)では遺伝子機能解析グループと共同で神経系膜分子ニューロピリンー1の遺伝子をノックアウトしたマウス、ならびに、神経線維の伸張を抑制する反発因子として知られているセマフォリン3A(以前はセマフォリンIII/Dと呼ばれていた)遺伝子をノックアウトしたマウスの作出に成功し、ニューロピリン-1がセマフォリン3Aのレセプターとして機能していること、ニューロピリン-1を介したセマフォリン3Aの神経線維反発シグナルが秩序だった末梢神経回路の形成に不可欠であることを証明した。さらに、ニューロピリン-1が血管内皮増殖因子(vascular endothelialgrowth factor;VEGF)と結合して補助レセプターとして機能し、胚での血管形成を制御することも明らかにした。また、ニューロピリン-1を介したセマフォリン3Aシグナルが交感神経系の形成に必須であることも明らかにした。一方、神経系膜分子プレキシンの解析も進行し、マウスで4種類のプレキシン遺伝子が存在すること、それぞれのプレキシンが発生時の特定の神経回路で選択的に発現することを明らかにし、プレキシンが神経回路の形成に関与する可能性を明らかにした。プレキシンの機能を明らかにするため、プレキシン遺伝子欠損マウスの作製、線虫を用いた分子遺伝学的解析を進めている。嗅覚回路形成解析グループ(共同研究者:平田たつみ、国立遺伝学研究所)では、神経回路形成機構解析のためのモデル実験系を開発し、神経回路形成を制御する分子機構の解明を進めてきている。研究対象をマウス嗅覚神経回路に絞り、嗅覚神経回路を培養下で再構成する技術を確立した。更に、モノクローナル抗体法を用いて、嗅覚神経回路形成に関与する分子を検索し、培養下で再現させたマウス嗅覚神経回路を用いてその機能を検証した。遺伝子機能解析グループ(共同研究者:八木健、岡崎国立共同研究機構生理学研究所)ではFynキナーゼの機能をFynキナーゼの機能欠損マウスを用いて調べ、アルコール摂取時に海馬のシナプスでFynが活性化され、学習·記憶に重要な役割を持つNMDA受容体をリン酸化し、アルコールにより機能が低下したNMDA受容体の機能を回復させることを明らかにした。さらに、Fynチロシンリン酸化酵素をプローブとして、新規な神経回路の形成機能分子の単離を試みた。その結果、Fynに結合する新たなカドヘリンファミリーCNR(cadherin-related neuralreceptor)を得ることに成功し、その生化学的特性、発現様式、遺伝子構造の解析、ならびに遺伝子マッピングを行った。また、各種の遺伝子欠損マウスの作製、時限遺伝子欠損法の開発を行った。

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