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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 815
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「脳を知る」平成7年度採択研究代表者
「神経系形成におけるGlial cells missing遺伝子の機能」

堀田 凱樹1)
1) 国立遺伝学研究所 所長·教授
Abstract:  神経回路網の形成機構を明らかにすることは脳の機能解明にとって極めて重要であるが、分子レベルでは未だ未解明な点が多い。我々は、ショウジョウバエのglialcells missing(gcm)という遺伝子がニューロンとグリアの間の分化を制御することを見出した。gcm遺伝子は新規の転写調節因子をコードし、進化的に保存されている。本研究では、gcmとその関連遺伝子の機能解析を通して神経系を中心とした発生分化の機構を調べることを目的としている。特に(1)gcm関連遺伝子の機能、(2)ニューロン·グリア分化過程、(3)軸索走行メカニズムに焦点を絞った研究を行っている。gcm関連遺伝子の機能については、まずショウジョウバエのgcmとその関連遺伝子gcm2が血液系の細胞分化に関与しているらしいことが分かってきた。またマウスのGCM遺伝子は血球系でも一過的な発現を示すことが分かった。マウスのGCM遺伝子の強制発現を目的として高力価のウイルスを作成し、大脳半球から作成した初代培養細胞に感染させ、さまざまなマーカーで染色して観察している。ゼブラフィッシュgcm-bは受精後3日目頃には鰓弓上皮に限局して発現する。gcm-bを強制発現したところ、顎骨が肥大した稚魚が得られ、この組織の分化で機能しているかもしれないニワトリのGCMaは未分化な神経上皮細胞に現局した発現をすることが示唆されている。gcmのDNA結合領域の構造解析のために、NMRスペクトルの取得を行い、解析を進めている。ニューロンとグリアの分化過程については、末梢神経系のある細胞系譜では、Numbタンパクによって非対称的なNotchシグナルの活性化がおこり、これがgcm遺伝子の発現を正に制御していることが明らかとなった。神経細胞·グリア細胞の分化に関与する新たなタンパクとしてsolo(snapped outer longitudinals)を単離した。soloはBTB/POZ ドメインとzinc fingerを持ち、転写因子だと考えられる。ほとんどすべての神経細胞で発現するがグリア細胞に発現せず、神経細胞の正常分化に必須である。軸索走行におけるグリア細胞の機能を解析した。グリアの分化に異常を持つ突然変異体では軸索とグリア細胞との会合が異常となって軸索走行に異常が生じることなどから、グリア細胞と神経軸索は相互依存的に神経系を形成すると考えられた。さらに軸索ガイダンス分子ネトリンおよびその受容体フラッツルドの作用機構を解析し、Frazzledはネトリンを捕捉し特定のパターンで再配列させ、位置情報を形成することを発見した。

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