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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 7
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「生命活動のプログラム」平成7年度採択研究代表者
「細胞増殖における染色体複製の型の多様性と複製装置の活性化の分子機構」

新井 賢一1)
1) 東京大学医科学研究所 所長・教授
Abstract:  研究の狙い
細胞複製機構の解明は、細胞増殖制御の分子機構を理解するために必須であるだけでなく、個体の発生、分化、恒常性の維持など基本的な生命現象の理解、さらには癌など、細胞増殖異常によって引き起こされる数々の疾患の分子基盤を理解するためにも重要である。本研究では細胞増殖における複製活性化機構を解明することを目的として、大腸菌、酵母、動物細胞を材料として研究をすすめてきた。とくに、増殖因子による複製誘導の細胞内シグナル伝達機構、複製起点での複製装置の活性化の分子機構、また環境変化、特にDNA損傷因子などによる複製の一時的停止により誘導される新規な複製様式の解析、種々の細胞型における複製や転写の様式の多様性についての分子基盤について明かにすることを目標にしている。
これまでの研究の概要
サイトカインによりその増殖分化が制御される血液、免疫細胞をモデル系として用いて増殖因子による複製誘導の分子機構を解析してきた。また、複製起点の活性化機構を解明するために複製装置の活性化因子を同定し解析した。またDNA損傷による組み換え依存性の複製機構を解析した。さらに、細胞型、あるいは組織によって変化する複製、転写の様式についてその分子基盤について免疫担当T細胞をモデル系として解析した
成果
これまでにサイトカイン受容体の変異体の解析から、サイトカインに応答して複製を開始するために必要な受容体の領域を決定し、そこに会合するチロシンキナーゼJAK2の重要性を示した。さらに、サイトカインに応答して複製誘導に関与する新規細胞内シグナル伝達分子を同定し、解析している。また、動物細胞の新規のリン酸化酵素(Cdc7類似キナーゼ)を同定しこれが、複製起点で複製装置の活性化を触媒する重要な制御因子であることを示した。また、DNA損傷や複製停止によって誘導される組み換え依存性の複製機構について解析した。さらに、2種類のT細胞(Th1とTh2)における転写と複製活性化の制御機構を解析し、Th2特異的に発現されるサイトカイン遺伝子領域に細胞型特異的な染色体構造が存在することを示した。
今後の見通し
単離されたシグナル伝達分子を用いてサイトカイン受容体の複製誘導のより詳細な分子機構を解析をすすめるとともに、Cdc7キナーゼによる複製装置活性化に至る分子機構の全貌を明かにすることを目指す。また、DNA損傷により誘導される組み換え依存性複製の機構と生理的意義について真核細胞において検討する。細胞種特異的な染色体構造の変化と、転写と複製の活性化の機能的連関について明かにする。これらの努力により複製装置活性化の一般的な分子機構とともに、環境変化に伴う複製様式の変化、さらに細胞種特異的な複製と転写を可能にする分子基盤が明かになることが期待される。本研究の応用的側面として、同定されたシグナル伝達分子の改変による幹細胞の増殖と分化の人為的操作法の開発、DNA複製に特異的に関与するCdc7類似キナーゼを標的とした、阻害分子の探索とその抗癌剤としての応用を目指している。また、Th1-Th2細胞群のバランスの異常はアレルギーや自己免疫疾患などを起こすことが知られており、ナイーブT細胞からTh1-Th2細胞への分化のしくみの解明はこれらの疾患の発症機序の解明、さらには治療法の開発につながることが期待される。

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