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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 669
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「電子·光子等の機能制御」平成11年度採択研究代表者
「光·電子波束制御エンジニアリング」

覧具 博義1)
1) 東京農工大学工学部 教授
Abstract:  本研究プロジェクトは、光の周波数および振幅のみならず、位相を制御して情報を載せることにより、より自由度の高い情報処理通信の可能性を提案するものである。たとえば、超高速通信への応用が期待されているフェムト秒光パルスは、数十フェムトの高い時間分解能をもつのと同時に、数十THzに及ぶ幅広いスペクトル帯域を持つ特徴がある。光パルスは多数のレーザー共振器モードの光を重ね合わせて形成した波束と考えることができる。この時、各モード間の位相関係を精密に制御する技術が進み、その結果、可視光領域で150THzに及ぶ周波数帯域での分散を完全に補償し、最短4.5fsのパルスを発生するに至っている。このような光波束によって、物質中の複数の量子状態をコヒーレントに励起し、その重ね合わせとしての電子波束を形成することができる。我々は、コヒーレントな光パルスを照射する物質系を設計して、光の位相情報を物質内の電子波束として書き込み、さらに別の光パルスによって読み出す技術を提唱した。それは、フェムト秒パルスが持つ各周波数成分の位相を制御して情報の書き込みと読み出しを行うものである。この方法により、周波数多重伝送(FDM)と時間多重伝送(TDM)の両方の利点を組み合わせ、さらに自由度の高い伝送方法を実現することができる。本研究プロジェクトでは、フェムト秒時間領域でのダイナミックな超高速位相制御の原理実証実験を行うことを目的とする。この、光·電子波束の相互制御は、分子系を用いた化学反応制御の実験ですでに可能性が示されているものである。我々は、シアニン色素3-3’-iethylthiatricarbocyanineiodide(DTTCI)をフェムト秒チャープパルスで励起すると、励起状態分布数に比例する長寿命成分の信号量がパルスのチャープ量に大きく依存する現象が観測した。特にパルスチャープの向きが負の場合には励起状態分布数は励起直後に大きく減少し、正の場合には大きな分布数が残る。この結果は、パルスの前半部分で励起状態に誘起された波束がパルスの後半で誘導放出により基底状態に戻されるpumpdump過程で解釈できる。本年度は、単一モードの振動状態と結合した2準位系に対して量子力学的計算を行い、実験結果を半定量的に再現することに成功した。さらに、この電子波束制御の対象を量子構造半導体に拡張する目的で、量子ドット系における緩和速度等についての情報について考察した。特に、量子ドット系における励起キャリアの緩和·拡散が、レーザー特性に及ぼす影響、特にスペクトル的および空間的なホールバーニング(HB)を通じて発振スペクトルに及ぼす影響を解析した。今後の方針として、本研究プロジェクトでは、サブレベル構造を自由に設計できる量子井戸や量子ドットなどのナノ構造半導体を対象物質に選ぶ。ナノ構造半導体の作成技術は、電子波束制御に適した半導体構造を実現することが可能であると考えられる。研究体制は、1)光通信にも応用できる1.1μm から1.5μm帯のフェムト秒パルスの位相制御、2)ナノ構造半導体の設計と作成、3)ナノ構造半導体とフェムト秒パルスの相互作用に関する理論的研究の3グループから構成する。

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