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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 655
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「電子·光子等の機能制御」平成11年度採択研究代表者
「核スピンネットワーク量子コンピュータ」

北川 勝浩1)
1) 大阪大学大学院基礎工学研究科 助教授
Abstract:  量子コンピュータは、0と1の重ね合わせを許す量子ビットの間で演算を行い、全ての可能性を並列に処理して、干渉によって正解を効率的に抽出する情報処理の新しいパラダイムである。その能力はビット数とともに指数的に発散するが、実験的にはまだ2ビットのものが誕生したばかりである。そこで、本研究では量子コンピュータの多ビット化を目指して、高分子や結晶の核スピンネットワークを用いた量子コンピュータと、それとは相補的な光子を用いた量子コンピュータの研究を、以下の通り行った。
I.高分子量子コンピュータ
核スピンネットワークを用いて量子回路を構成し、量子コンピュータとして動作させるための基礎的な技術を確立することを目的として、小規模な分子を使った量子アルゴリズム実験と分子の探索、分子をプログラムするための量子コンパイラの試作、核スピンの制御に適したパルス波形の検討を行った。また、高分子を使った量子コンピュータの実現に必要な基礎的な知見を得ることを目的として、量子コンピュータに適した高分子の探索と高分子の核スピンネットワーク上のデータ転送·演算のシミュレーションを行った。
II.結晶量子コンピュータ
山口·山本によるCePを使った結晶量子コンピュータの理論的提案の実現性を実験的に評価することを目的として、CePのNMR測定を行った。その結果、これまでに作成されたCePの試料ではNMR線幅が広すぎて量子計算に必要な十分に長い「量子もつれ状態」が確保できないことが分かった。また、緩和時間やESR個別励起などが過大評価になっていることを指摘した。実験的には試料の高純度化、理論的には緩和時間と個別励起の問題の解決が今後の課題である。
III.光量子コンピュータ
単一量子事象が観測可能というユニークな特徴を持っている、線形光学素子量子計算の手法を、多光子とその相関をも取り扱えるように拡張し、量子誤り訂正などの単一事象の検出が本質的な量子アルゴリズムの直接的な検証実験を目指している。今年度は、相関を持った多光子の発生に必要な励起用レーザーの選定·発注、および光子検出器の改良を行った。12年度は、相関を持った多光子の発生と高精度な検出に取り組む。

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