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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 593
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「極限環境状態における現象」平成9年度採択研究代表者
「強磁場における物質の挙動と新素材の創製」

本河 光博1)
1) 東北大学金属材料研究所 教授
Abstract:  グループA
高強度Nb3Sn線材を用いた液体ヘリウムフリー超伝導マグネットの開発を行った。
グループB
磁場中CVD法でYBCO123膜の作製プロセスの開発研究を行い、磁場配向効果による結晶性改善と特性向上化および溶融法と磁場を組み合わせた新しい方法により、バルク材料の結晶性と特性の改善を行った。
グループC
酸化物高温超伝導バルク材や線材の臨界電流密度Jcの向上には結晶配向性の向上が不可欠である。Bi系酸化物超伝導体においては、超伝導酸化物層が薄い(10μm以下)場合には有効な方法が開発され、高Jcの長尺線材が製造されている。しかし、バルク材や層厚の厚い線材に対しては有望な方法が見い出されていない。この研究では、強磁場を利用してBi系酸化物超伝導体(Bi2212, Bi2223)の結晶配向育成を行ない、高結晶配向のバルク材を得るとともに高Jcをもつ線材への適用を図る。平成10年度は、Bi2212の強磁場中育成(焼成)について調べ、強磁場が結晶の高配向化に極めて効果的で、バルクにおいては勿論、線材においても臨界電流密度Jc の向上に非常に有力な方法あることを見い出した。11年度は、その最適化を図るとともに、77K応用において重要なBi2223相の磁場中結晶配向を試み、配向化が可能であることを見い出した。今後、この成果をBi2223電流リードや線材のJc向上に適用する。さらに、配向育成よりもさらに本質的なBi2212単結晶(ウィスカー)育成に及ぼす強磁場効果について調べ、超高周波ジョセフソンデバイスに必要な高品質Bi2212単結晶の育成を試み、その開発に資する。
グループD
反磁性物質の磁気浮上を結晶成長へ応用し、新しい物質合成の方法を開拓すること、および導電性ポリマーの電解重合過程に磁場を印加する磁気電解重合法を開発し、ポリマーの特性制御を行い、磁気電解重合膜を電極に用いる新しい化学反応制御法を開発する。
グループE
タンパク質の良質大型単結晶の育成は、その3次元構造解析や、バイオ高機能性材料の創製に必須の課題である。しかし、タンパク質の結晶化は現在のところ非常に困難で、この段階がボトルネックとなっている。我々は、タンパク質の結晶化過程を磁場により制御できるのではないかと着想し、平成8年度より予備的な実験を開始した。そして、磁場が結晶の配向、個数(核形成過程)、形に顕著な影響をおよぼす事を明らかにするなどの成果を上げてきた。平成11年度には、1)均一磁場が電解質水溶液中の「対流を抑制」すること、および2)磁場中で結晶化するとタンパク質結晶の「質」が格段に向上すること、を明らかにした。
グループF
極めて高い純度、極めて理想的な形状および表面が材料に要求され、静電浮遊、電磁浮遊、超音波浮遊などの溶融時に容器を使用しない物質創製方法が開発されてきた。反磁性による磁気力は原子·分子レベルでの重力の相殺であるため、宇宙空間の代替となる擬似的な微小重力状態の実現が期待でき、無容器での物質合成の手法として大変興味深い。本研究では、磁気浮遊溶融炉の開発を目的とし、いくつかの光学ガラスの浮遊溶融実験を行った。
グループG
アルカリ土類金属とTCNQの1:1錯体が室温でもスピンパイエルス状態を発現する事実によっても示唆されているように、TCNQ分子は電子親和力が強い上に、アニオンラジカル分子のp*軌道が遷移金属酸化物に比肩し得る電子相関を持っており、分子磁性の観点から興味深い。本研究では中性/ラジカル混合型と称されるTCNQ錯体について、電子物性に対する磁場中結晶成長の効果を探索することを目的として、強磁場超伝導材料研究センターの6T型液体ヘリウムフリー超伝導マグネットを用いて、磁場中結晶成長が分子光磁性、電気伝導、結晶構造などに及ぼす影響を調べている。平成11年度はカチオンとTCNQ分子が2:3 の組成比から成る不均化錯体の典型的な化合物である、Cs2TCNQ3と(NMe4)2TCNQ3を取り扱った。
グループH
磁性材料の機能特性の発現やその改善には、微細組織の制御が重要であり、強磁場を利用した配向制御は極めて有効な方法のひとつであると考えられる。特に、強磁場中での薄膜成長においては、表面拡散の効果が期待できるためバルク試料よりも顕著な磁場中配向効果が生じる可能性がある。しかし、本プロジェクト以前には、成膜装置と強磁場発生装置を組み合せることが困難であるという理由により、強磁場中で磁性薄膜を成長させるという研究は全く行われておらず、成膜装置や成膜条件などに関する基本的なことさえも不明であった。本研究では、
(i)磁性薄膜の成長過程における磁場配向効果を明かにすること、および、
(ii)それに基づき新規材料を創製することを目標として、強磁場中のスパッタリングにより磁性薄膜を作製し構造と磁気物性を調べている。

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