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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 512
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「極限環境状態における現象」平成8年度採択研究代表者
「低次元金属·超伝導の超異方性強磁場効果」

石黒 武彦1)
1) 京都大学大学院理学研究科 教授
Abstract:  近年低次元的な構造を持つ導体において従来の物質ではみられなかった新しい超伝導が見出されている。本研究ではこうした超伝導について、方位を制御した磁場下での物性を明らかにすることによってその本性を解明し、また、その電磁応用の基盤を固め、新しい機能物質を開発することを目指して研究を進めている。平成11年度にはSr2RuO4の超伝導が三重項対になっているものであることを共同研究を含む一連の研究により決定づけると共に、三重項対特有のスピンの自由度によって生じる新しい超伝導の様相を明らかにする研究を進めた。このためには2次元面に高い精度で平行に磁場をかけることにより明らかにされる超異方性強磁場効果の手法が決定的な役割を果たした。即ち、面平行磁場下では上部臨界磁場付近で秩序パラメータの対称性が低下することが理論的に期待されるがこれを磁化率、比熱、熱伝導の測定により確認した。一方、2次元超伝導体の面平行磁場下の超伝導相図を代表的な2次元分子性超伝導体について明らかにした。通常上部臨界磁場の決定は電気抵抗の測定によりなされるが、磁束運動、熱ゆらぎの影響があるためにその手法については疑問が投げかけられることが少なくない。本研究では比熱による熱力学的な測定などに対比することにより面平行磁場下の研究では電気抵抗による測定が妥当な結果を与えることを検証し、それを基に研究を進めた。また、λ-(BETS)2GaCl4では面内異方性があることを見出し、それがd波超伝導対により生じたものであることを示した。更に、面平行磁場下では1964年にFulde-Ferrell, Larkin-Ovchinikovにより指摘されている秩序パラメータの空間変調状態がとらえられる可能性があることについてその観測条件等を理論的に詳しく調べた。また、層状超伝導体の層面に平行に磁場をかけた時の磁束状態を高周波磁化率の測定により明らかにする実験を進め、面平行磁場による面間結合の遮断効果を明らかにし、それが生じるしきい値磁場の温度依存性についての経験則を導いた。理論的観点からは線状乱れによるグラス転移の生じる境界を与える関係を解析的に導出し、その近傍におけるホール係数などの特性を明らかにした。物質開発研究においてはSr2RuO4とCa2RuO4を連続的につなげる物質相図を得ると共にCa2RuO4の単結晶育成に成功し、それが新しいモット絶縁体となっていることを明らかにした。分子性導体ではBO分子の自己集積化とそれによる導電体膜の形成能に着目し、ポリカーボネート高分子膜に導入することにより分子の配向性に着目した導電性透明膜が得られることを示した。

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