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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 449
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「単一分子·原子レベルの反応制御」平成9年度採択研究代表者
「生体分子解析用金属錯体プローブの開発」

松本 和子1)
1) 早稲田大学理工学部 教授
Abstract:  金属錯体は中心金属の種類と酸化状態、および配位子の構造と電子的性質により、多様な物理的、化学的性質を示す。本プロジェクトでは、特殊な配位子や異常酸化状態の金属を含む金属錯体を合成し、金属-配位子、あるいは金属-金属間の協同的相互作用を発現させることにより、
·生体分子のプローブとしての蛍光性希土類錯体、Zn、NO検出用バイオプローブ
·オレフィンの酸化触媒としての白金(III)二核錯体
·小分子活性反応のための硫黄架橋ルテニウム二核錯体を合成する。これらの錯体の特徴とねらいは以下のように要約される。
·蛍光性希土類錯体の合成とバイオテクノロジーへの応用
強い蛍光、長い(数百マイクロ秒)蛍光寿命、大きなストークスシフト(∼200nm)という特徴を持つユウロピウム、テルビウム、サマリウム等の錯体を合成し、これらを蛍光ラベルとして、イムノアッセイ、DNAハイブリダイゼーション、DNAシークエンシング等に応用する。時間分解検出との組み合わせにより現在のところ、ユウロピウムラベル剤BHHCTを用いてイムノアッセイの感度を従来法の2-5桁向上させているが、現在のラベル剤は水に不溶であるため低分子量の生体分子のラベルにむかない。そこでより広い分野での応用を目指して、水溶性で希土元素との錯体の安定性がより一層高いラベル剤の開発を目指している。さらに一波長励起多波長検出システムを目指してユウロピウム以外にテルビウム、サマリウム等の蛍光性錯体を合成する。最終的に、これらのラベル剤をイムノアッセイ、DNA分析、高速液体クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動等に用い、時間分解検出法を取り入れることにより従来法の感度を2-5桁向上させる。DNA分析に関しては、ハイブリダイゼーションによる特定遺伝子断片の検出法を開発する。また、エイズ発症に対して遅延効果のある蛋白質、hSDF-1の定量に対してユウロピウム-BHHCTをラベルとするイムノアッセイを応用し、世界初の血清hSDF-1の定量を試みる。
·白金(III)二核錯体の有機金属化学
白金(III)は異常酸化状態であり、通常安定に存在しない。しかしある種の架橋配位子を用いると二核錯体を単離できる。この錯体は水溶液中でオレフィンをケトン、アルデヒド、エポキシド、ジオールに触媒的に酸化する。その反応機構は白金の軸位へのオレフィンの配位に続き、水が配位オレフィンを親核的に攻撃することに始まる。この機構の中間体であるβ-ヒドロキシアルキル-白金(III)二核錯体が単離され、結晶構造解析された。上記の反応は、ジオール生成で明白なように、二つの親核グループがオレフィンに付加することを示しており、本研究では多様な親核試剤との反応を試み、有用な触媒反応を開拓する。
·硫黄架橋ルテニウム二核錯体によるC-H活性化反応
無機体硫黄Sn2-(n=1,2…)はπドナー性の強い配位子で、他に見られない性質を金属錯体に付与する。天然ではS2-の鉄クラスター錯体が酵素の活性部位を占め、N2、NO、H+などの還元や電子伝達系に関与していることを見ても、この種の錯体の特異性が理解されよう。本研究では硫黄架橋ルテニウム二核錯体を新規に合成し、二核ルテニウム間あるいはルテニウム-硫黄間の複数配位座を利用するC-H活性化反応を試みる。

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