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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 320
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「量子効果等の物理現象」平成8年度採択研究代表者
「ナノ物質空間の創製と物理·化学修飾による物性制御」

山中 昭司1)
1) 広島大学工学部 教授
Abstract:  物性物理学の飛躍的な進展は新物質の発見によりもたらされると言って過言でない。しかし、その新物性の理解には、単に特異的な新物質が合成されるだけでは不十分で、想定し得るパラメーターが連続的に変えられる物質群が用意されることが重要であり、基本的な結晶構造や化学的な環境を変化させることなく、物理量を独立して変化できることが望ましい。例えば、物性制御に必要なキャリアー(電子と正孔)を大量に導入しても結晶構造の骨組みが保持され、イオン化ドナーやアクセプターが不純物散乱体として働かないことが理想である。この様な系の実現にはナノスケールの空間(空隙)を有する物質を探索し、設計·合成することが有効な戦略目標であると考える。本研究は、新規な物性を有する新物質の開拓を、このようなナノ空間を有する物質の創製から出発し、結晶構造内部からの化学修飾および物理修飾を通じて、物性制御の可能性を探索する。新しい高温超伝導体および興味ある量子効果、超高速スイッチング現象の出現が期待できる。物質創製グループは、かご状のシリコンナノネットワークを有する新規シリコンクラスレート化合物を種々合成し、構造を決定すると共に、物性測定を行った。本プロジェクトで新たに開発した電子ドープ層状窒化物高温超伝導体について、アルカリ金属と溶媒分子のコインターカレーションによる層間距離の拡大と超伝導物性について、詳しく調べた。層状結晶の構造設計と物性制御を目的に、超高真空蒸着装置を用いて、層状窒化物人工格子の設計と合成を行った。光物性グループのうち、実験サブグループでは、低次元物質に外部から光を照射することで、その物性を制御する実験行った。まず、量子井戸の励起子コヒーレンスが、近接した領域の高密度励起子によって小さくなることを、励起子発光寿命をプローブとして示した。また、巨大な励起子効果を有する半導体薄膜の超高速ポンププローブ分光を行い、励起子吸収が瞬時に(レーザパルス幅以内で)飽和とブルーシフトを示し、数psで回復することを見いだした。さらに、石英基板上の数百ナノメータの周期構造に光と強く相互作用する半導体薄膜をつけることによって、光定在波と励起子の強結合状態(ポラリトニック結晶)を実現し、その光学的性質を調べた。共鳴条件下では励起子発光が超高速になることを予想して測定を行ったが、期待に反して若干寿命が長くなることがわかった。理論サブグループは縮退半導体、金属をも含めた多体系をボーズ粒子の描像で記述する理論を組み立てている。

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