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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 200
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「生体防御のメカニズム」平成8年度採択研究代表者
「自己免疫制御の分子基盤」

谷口 克1)
1) 千葉大学大学院医学研究科 教授
Abstract:  本研究は、免疫制御を専門とする新しい免疫細胞系列として同定したVα14NKT細胞の受容体構造とそのリガンド、分化機構、機能発現のメカニズムを明らかにした。その結果、1)Vα14NKT細胞受容体リガンドが糖脂質であるα-GalCerであること。2)Vα14NKT細胞受容体はNKT細胞だけに発現する受容体でNKT細胞の分化に必須であること。3)GMCSF受容体からのシグナルにとって、遺伝子再構成を起し、Vα14受容体を発現するVα14NKT細胞前駆細胞を発見した。4)流産、IgE抗体産生の抑制、自己免疫病発症阻止、がん転移阻止する機能があることを発見した。
今後最も重要かつ成果の期待できる研究を述べる。
1)Vα14NKT細胞抗原受容体の結晶構造解析
Vα14NKT細胞抗原受容体はNKT細胞が持っている唯一の抗原受容体であり、NKT細胞の機能を決定する重要な分子であることから、その構造を知る事は極めて重要である。そこで既に、われわれは構造解析に必要な2つの可溶性分子を作ることに成功した。
イ)可溶性Vα14受容体の作出
結晶化構造を知るために膜貫通領域および細胞質内領域を親水性ペプチドで置換した可溶性Vα14/Vβ8.2受容体を昆虫細胞において大量に作出することに成功した。
ロ)可溶性CD1d分子の作出
CD1分子とα-GalCerリガンドとVα14受容体とを結合した結晶化構造を知るために可溶性CD1分子の膜貫通領域および細胞質内領域を親水性ペプチドで置換した遺伝子を昆虫細胞に発現させて作出した。
これらの物質を用いて現在結晶化の予備実験段階に入っている。
2)GFP遺伝子ノックインマウスを用いたNKT細胞分化の研究
通常分化の研究にはリンパ球前駆細胞を必要とするが、その数は極めて少ない。そこでこの問題を解決するために、リンパ球前駆細胞だけが発現するRAG遺伝子の代りに蛍光色素遺伝子をその下流に結合した遺伝子を遺伝子相同組み替え法でマウスES細胞に導入しマウス個体を作ると、リンパ球前駆細胞だけが蛍光を発することになりFACS装置により簡単に前駆細胞だけを集めることができ、免疫系分化の研究を可能にする。
イ)GFP遺伝子をRAG遺伝子部位にバックインするためのコンストラクトを作成し、この遺伝子をES細胞に導入置換し、キメラマウスを作成した。すでにホモ動物も得られている。キメラマウス、ホモマウスではGFP遺伝子の発現が見られた。とくに胸腺では皮質と髄質の境界領域で認められT細胞の分化している場所を同定できた。
これらのマウスを用いて次の研究のステップに進む。
それは蛍光で光る前駆細胞に今一度RAG遺伝子を導入し分化させることである。そのためにはレトロウイルスに遺伝子を組み込み前駆細胞に感染させ分化させる。そこですでに下記の遺伝子を持つベクターを作り実験系を確立した。
ロ)pMFG-hCD2,pMFG-rasVal12,pMFG-hCD2RAG1WT,pMFG-hCD2-RAG1mutants,pMSCV-hCD2-Vα14WTの構築は終了し、レトロウイルスをベクターとしてこれら遺伝子を導入する実験系はできた。
3)NKT細胞特異的遺伝子の検索
サブトラクション法を用いてNKT細胞に特異的に発現している遺伝子を単離する。すでに30個のNKT細胞に特異的な新しい遺伝子の単離に成功している。これらはNKT細胞研究の新しい展開を予感させる。

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