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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 1240
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「内分泌かく乱物質」平成11年度採択研究代表者
「内分泌かく乱物質の動物への発生内分泌学的影響」

井口 泰泉1)
1) 岡崎国立共同研究機構統合バイオサイエンスセンター 教授
Abstract:  本研究の主目的は、下記の5項目である。
(a)内分泌かく乱物質の多くはエストロゲン作用を示すことから、研究は主として、発生中の脊椎動物、及び成体での生殖系、神経系、嗅覚、及び行動をもとに、哺乳類、鳥類、両生類、魚類にエストロゲンがどのような不可逆的な影響を及ぼすか、作用機構を含めて明確にし、エストロゲンに敏感な発生中の期間を動物種毎に解析する。
(b)これを元にして、内分泌かく乱物質の環境濃度での発生影響をも明らかにする。
(c)また、全ての遺伝子が解析され、ヒトの遺伝子との相同性も多く、エストロゲンに反応するC. elegansを、発生影響を調べる系として用いる。
(d)さらに、マウスやサルを用いて、内分泌かく乱物質の胎児影響を調べる科学的な根拠として胎盤透過性を解析する。
(e)内分泌かく乱物質の生態系に対する影響を、内分泌かく乱物質の影響が明確な海産巻貝を用いて作用機構を明らかにすると共に、環境影響評価に用いられるミジンコやウニへの発生影響·世代交代に対する影響、及び作用機構を明らかにする。
平成11年度は、ホルモン応答遺伝子を解析するための機器の整備、実験条件を検討し、センチュウ、マウスではDNAマイクロアレイを開始した。魚類や両生類でも、エストロゲン受容体、SF-1、バソトシン受容体をクローニングした。マウス胎仔で形態形成遺伝子の発現がエストロゲンによって影響を受けること、胎盤形成のモデルとなる脱落膜形成に伴う、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体の発現変化、妊娠マウスへのビスフェノールA(BPA)の投与により、短時間で胎仔へ移行すること、ニワトリ卵にエストロゲンを投与すると孵化率の低下と共にシナプス形成の減少が起こることを明らかにした。ラット胎仔脳からのグリア前駆細胞の培養系も確立した。無脊椎動物のイボニシではエストロゲン、アンドロゲン様物質が存在し、アロマターゼ活性も存在することを明らかにした。以上のように、形態学的影響から遺伝子レベルの影響まで、エストロゲン及び内分泌かく乱物質の作用機構を明らかにするための基礎データを集積し、これを元に飛躍的な研究の発展をめざす。生殖内分泌学、比較内分泌学、発生内分泌学、神経発生学的知見を総合して、脊椎動物の発生·生殖·行動·神経を標的に、また、無脊椎動物の発生、生殖、行動を標的にし、主にホルモン及び内分泌かく乱物質の不可逆化機構を、遺伝子レベルで解明する事を主目的に研究を展開し、研究の発展とともに、比較生物学的に、脊椎動物と無脊椎動物の研究方向を統合させる。

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