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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 1214
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「内分泌かく乱物質」平成10年度採択研究代表者
「ヒトを含む哺乳類の生殖機能への内分泌かく乱物質の影響」

堤 治1)
1) 東京大学医学部 教授
Abstract:  内分泌かく乱物質は動物で流産などの生殖異常を生ずるとされ、サルでは微量のダイオキシンが子宮内膜症の病因となると示唆された。ヒトの生殖機能は内分泌かく乱物質に敏感と予測されるが、内分泌かく乱物質による人体の汚染の程度と不妊症や子宮内膜症等を含めた生殖機能に及ぼす影響は明らかではない。本研究の特色は内分泌かく乱物質の生殖機能への影響をヒト臨床材料による評価、初期胚に対する作用の臨界点、内分泌かく乱作用の分子機構等の面から総合的に明らかにすることであり、ヒト生殖機能への影響という国民全体の不安に具体的に解答することを狙いとする。ダイオキシンの子宮内膜症発症との関連を解明する目的で、ダイオキシン関連遺伝子のヒト子宮内膜における発現を調べた。その結果、子宮内膜におけるダイオキシン関連遺伝子の発現を確認し、ダイオキシン応答遺伝子p62(dok)が子宮内膜症重症例で高い傾向にあり、ダイオキシンが子宮内膜に影響を及ぼす可能性が示唆された。子宮内膜症は疫学的に喫煙者に少ないとされるが、喫煙者と非喫煙者との比較ではダイオキシン受容体AhRの発現が喫煙者において低値であり、疫学的な知見を裏付けるものと考えられた。また、ヒト脂肪組織中からのダイオキシン類の検出を試み、全ての脂肪組織からダイオキシン類が検出され、重症子宮内膜症群では軽症群より有意にダイオキシン類濃度が高値であった。ヒト卵胞液からもダイオキシン類が検出され、子宮内膜症群で高い傾向があった。一方、男性不妊症患者の血清中ダイオキシン濃度を測定したところ、35歳未満の乏精子症群で対照群より高い傾向があった。ビスフェノールAもまた、プラスチックの原料として我が国では年間約25万トン消費され、全河川の57%から検出される内分泌かく乱物質である。昨年、母獣への低用量投与による雄新生仔の前立腺肥大、雌新生仔の性成熟促進などが報告され、ヒトの汚染や生殖機能への影響についても懸念されているが、その詳細は不明である。我々は、ヒト血清中から1-10nMのビスフェノールAを検出し、これとほぼ等しい1-3nMという低濃度でマウス初期胚発育を促進することを明らかにした。我々は既に1-5pMという非常に低濃度のダイオキシンが初期胚の発育を抑制あるいは促進することを明らかにしており、初期胚は内分泌かく乱物質への感受性が高いと考えられる。初期胚を用いた我々の実験系は内分泌かく乱物質の低用量作用を検討する上で有用であるため、その他の内分泌かく乱物質やそれらの相互作用なども含めて目下解析を続けている。

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