TOP > 巻一覧 > 目次一覧 > 書誌事項


平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 1205
[PDF (341K)] [引用文献


「内分泌かく乱物質」平成10年度採択研究代表者
「内分泌かく乱化学物質の細胞内標的分子の同定と新しいバイオモニタリング」

梅澤 喜夫1)
1) 東京大学大学院理学系研究科 教授
Abstract:  環境中には様々な内分泌撹乱化学物質(endocrine disrupting chemicals 以下EDC)が存在することが報告されており、ヒトの精子数減少や乳癌増加などの一因と推測されている。このヒトの生体内恒常性を乱す原因は、“外因性化学物質の異常なホルモン制御によるホルモンの合成異常、その貯蔵もしくは放出の異常、輸送あるいはクリアランスの異常、受容体の識別あるいは結合の異常、受容体結合後のシグナル伝達過程の異常”として説明されている。この様な諸過程の異常を分子レベルで原因解明することは、化学物質の毒性の決定や予防、更には治療法の研究に多大な情報を提供するため、各種EDCに対する作用機序を解明するためのスクリーニング法の開発を目指した体系的研究を、早急に実施する必要があると思われる。本研究はEDC暴露による生体侵襲の機序を分子レベルで明らかにし、更に有効で簡便なEDC スクリーニング系を確立することを目的とする。すなわち、生体内ホルモンの合成、分泌、情報伝達に関わる諸過程“遺伝子発現、Ca2+、cAMP、cGMP、diacylglycerol、リン酸化チロシン·セリン·トレオニン、蛋白質間相互作用、細胞内小胞のエキソサイトーシス”を定性·定量評価するための分析手法を開発し、EDCに対する情報伝達諸過程の影響を詳細に解析することを目的とする。この様な情報伝達過程において化学物質をスクリーニングすることにより、膨大な化学物質の中からEDCとなり得る化学物質を限定することが可能となる。この限定された化学物質に対して生物化学的手法、即ちその情報伝達に関わる酵素、転写因子や、遺伝子群等のEDC暴露による酵素活性の変化や発現する塩基配列を詳細に解析することより、内分泌撹乱の原因解明が可能になる。平成11年度は、diacylglycerol、及びcGMP などの第二次情報伝達物質に対する蛍光プローブ分子の設計及び合成を行った。またプロテインスプライシングを用いた新規蛋白質間相互作用検出法の開発、疎水場感受性蛍光プローブ分子の合成、及びリン酸化チロシン·セリン·トレオニンを検出するための蛍光共鳴エネルギー移動に基づく蛍光プローブ分子の開発を行った。これら蛍光プローブ分子の機能評価を単一細胞レベルで行うため、共焦点レーザー走査型蛍光顕微鏡のシステムの立ち上げを行った。また、ヒト神経芽細胞腫(NB-1)に対するEDC暴露による細胞内Ca2+及びIP3の恒常性撹乱を定量評価するため、高速励起波長切り切り換え可能な蛍光顕微鏡及び共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いて17β-estradiolのnongenomicな情報伝達系の基礎研究を行った。遺伝子発現に関しては、エストロゲン感受性ヒト乳癌細胞株(MCF-7)に17β-estradiolを添加し、SAGE法により遺伝子発現の変化を検討した。同様にヒト正常肝細胞、硬変肝細胞、肝臓癌由来培養細胞についても遺伝子発現プロファイルをSAGEにより解析し、総計94,580tagを得た。NB-1細胞へのEDC暴露により発現が誘導される遺伝子をジーンアレイ法により得た。今後はリン酸化チロシン·セリン·トレオニンに対する蛍光プローブおよびin vivo標識可能な疎水場感受性蛍光プローブの合成を引き続き行い、完成したプローブ分子を用いてEDCのnongenomicな情報伝達系への影響を評価する。遺伝子発現に関しては、ダイオキシンをヒト肝癌細胞株に添加した時に発現が変動する遺伝子を解析する。更に、EDCにより発現が顕著に変化する遺伝子をスライドガラス基板に整列させたDNAチップを作製し、遺伝子発現の変化を指標としたEDCスクリーニング法を開発する。

[PDF (341K)] [引用文献

Copyright(c)2000 科学技術振興事業団