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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 1199
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「地球変動のメカニズム」平成11年度採択研究代表者
「太陽輻射と磁気変動の地球変動への影響」

吉村 宏和1)
1) 東京大学大学院理学系研究科 助教授
Abstract:  本研究のねらいは、太陽の輻射変動が地球の気候変動の主たる原因でありうるのか、あるいは、そもそも気候変動に影響があるのか、あるとすれば、どの程度の影響で、どの程度の時間スケールの変動に対して影響があるのかを、定量的に検証することである。地球の気候は人類の活動が盛んになる以前から大きく変動してきた。現代の地球温暖化が、このような人類の活動によらない変動の一部かどうかを判定することも本研究のねらいの一つである。また、太陽の輻射変動が地球の気候変動の主たる原因であることを確定できれば、未来の太陽輻射の変動を予測し、地球気候の変動を予測する方法を開発することも、本研究のねらいの一つである。これまでの研究代表者の研究によって、太陽から地球に降り注ぐ輻射が、太陽周期とよばれる太陽の11年磁気周期変動と連動して変動することが予測されていた。この予測は、1970年代後半から現在にいたるまでの宇宙空間からの複数のスペース·クラフトによって実証されている。問題は太陽輻射変動と磁気周期変動は、位相を同じくするのか、すなわち、時間の遅れなく変動するのか、あるいは、時間の遅れをともなって変動するか、ということである。理論的には、ふたつの量は、時間の遅れをともなって変動することが予測されている。すなわち、輻射の変動は磁場の変動の後に起こることが予測されている。この予測は、太陽の磁気の起源の理論である、太陽対流層内のプラズマの流れによって対流層のなかに電流を流し、磁場を励起するダイナモ理論の帰結として、自然に得られる。遅れ時間をともなう輻射と磁場の変動の概念は、太陽輻射が地球の気候に影響を与えているかどうかを判定するときに重要な役割を演ずる。この判定には、過去の輻射の履歴と地球気候の指標としての気温の履歴を比較するのだが、過去の輻射の履歴をとどめる直接の指標はないから、その間接的指標として、太陽磁場の過去の履歴を、遅れ時間の補正なしに、そのまま使うことができるかどうかという問題に大きく関わっているからである。太陽磁場の履歴の指標は様々なものがある。過去の地球の気温の履歴の指標も様々なものがある。遅れ時間がないならば、磁場の履歴をそのまま使って、2つの量を比較できるが、遅れ時間があれば、その遅れ時間だけ磁場の履歴をずらして、地球気温の履歴と比較しなければならない。これまでの研究代表者の研究では、太陽輻射が地球の気候変動の主たる原因という仮説をたて、地球気温の履歴を太陽輻射の履歴の指標として使えると仮定して、太陽磁場と輻射変動の履歴の関係を調べ、理論の検証をしてきた。その結果、数十年から数百年の地球気温の履歴は、理論から期待される太陽輻射の履歴と驚くほどよく似た行動をすることが解っている。すなわち、太陽磁場と地球気温の履歴は、理論から期待される太陽磁場と太陽輻射間の履歴の間の遅れ時間をもって時間変化している。地球気温の履歴曲線を理論から期待される遅れ時間だけ過去にずらすと、太陽の磁場の履歴曲線とほとんど、ぴったり、一致する。これは、少なくとも数十年から数百年の地球の気候の変動が太陽輻射の変動の影響を強く受けていることを強く示唆している。これだけでは太陽輻射が地球の気候変動の主たる原因という仮説は、太陽輻射と地球気温の履歴のデータと照らし合わせて、自己矛盾がないということを立証したに過ぎない。本研究では、この仮説の検証をさらにすすめ、太陽の独立なデータを使う。特に、現存する太陽のデータから、太陽輻射の履歴の、より直接的な指標をつくり、地球気温の履歴と比較する。そのために、理論の精度を高める。このことにより、当初に述べた、太陽の輻射変動が地球の気候変動の主たる原因であるか、あるいは、そもそも気候変動に影響があるのか、あるとすれば、どの程度の影響で、どの程度の時間スケールの変動に対して影響があるのか、という問題を定量的に検証するができる。

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