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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 1169
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「地球変動のメカニズム」平成10年度採択研究代表者
「熱帯林の林冠における生態圏-気圏相互作用のメカニズムの解明」

浅野 透1)
1) 京都大学生態学研究センター 教授
Abstract:  熱帯林は、高い生物多様性と生物生産性に支えられ、大気との間に複雑で活性の高い相互作用をもっている。近年、エルニーニョ南方振動と熱帯樹木の一斉開花·結実、あるいは異常乾燥による樹木の一斉枯死とその後の更新などのように、地球規模の環境変動が熱帯林生態系の維持に大きな影響を持つ可能性が指摘されている。一方では、環境変動を原因とする撹乱によって、熱帯林の炭素·水収支が大きく時間的·空間的に変動し、その結果が大気へフィードバックされる。このような生態圏と気圏の相互作用の多くは、両者の境界層としての林冠における生態プロセスに支配されている。しかし、これまで有効な林冠アクセスシステムや広域の生態プロセスを把握する手法が開発されなかったため、因果関係やメカニズムの解明が進まず、地球科学と生態学のギャップとして残されてきた。この研究では、林冠クレーンシステムによる3次元的なプロセス解明と、メソスケールでの気象と生物現象の解析を結合することにより、とくに1)エルニーニョ南方振動が熱帯樹木の一斉開花および生態系に及ぼす影響、および2)地球規模の環境変動と熱帯林の炭素·水収支の時間的·空間的変動の解明をめざす。平成11年度は林冠クレーンの建設と林冠吊り橋などを用いた予備的実験·観測をおこなってきた。サラワク政府との共同研究に関わるMOUやクレーンの建設場所および条件などの交渉に時間を要したが、年度末の2000年3月にクレーンが完成した。これにより、本格的な研究実施に移ることができる。一方では、クレーンでの観測に用いる機材の調達および調整は順調に進んでおり、いくつかの予備的な測定実験に着手した。クレーン建設地周辺の地理情報や衛星データの取得を行い、GISによる広域把握をにらんだ予備研究作業を実施したほか、既存のタワーを用いて、樹冠内温湿度プロファイル、樹冠上降雨量、温湿度、風速、日射量、土壌水分、地温プロファイル、土壌中CO2濃度の予備観測を開始し、結果を得ている。また、一部の樹種について光-光合成曲線、クロロフィル蛍光反応回復曲線、蒸散速度、水利用効率、クチクラ蒸散、葉群動態、デンプン蓄積量などを予備的に調査した。

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