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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 1141
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「地球変動のメカニズム」平成9年度採択研究代表者
「北西太平洋の海洋生物化学過程の時系列観測」

野尻 幸宏1)
1) 国立環境研究所 総合研究官
Abstract:  本研究は、国際共同研究であるJGOFS(Joint Global Ocean Flux Study)の枠組みの中で、北西太平洋高緯度海域の定点時系列観測を行う。北太平洋では、亜寒帯海域のアラスカ湾と亜熱帯海域のハワイで時系列物質循環観測が継続されているが、本研究課題で北緯44°、東経155°に定めた亜寒帯北西太平洋定点(KNOT:KyodoNorth pacific Ocean Time series)の観測を開始することで、太平洋全域の観測網として充実される。海洋物質循環の東西太平洋比較、亜寒帯·亜熱帯比較を行い、太平洋全域の物質循環理解を助ける結果を得ることを目的とする。北西太平洋亜寒帯域では、CO2の吸収·放出に大きな季節変化があり、春から夏に植物生産によって有機炭素の固定と鉛直輸送が起こり、冬には鉛直混合によって亜表層からのCO2の回帰と放出が起こる。これは、日本とカナダの共同による貨物船観測で確かめられた。この機構の詳細な解明には、表層に限られる商船による観測では不十分で、鉛直構造を計測できる研究船観測が必要である。特に一定点での季節変化の観測は、その支配要因解明の有力な手法である。本研究では、国内研究機関所属研究船の北西太平洋高緯度海域航海の協力を得て、定点において質の揃った化学·生物観測を行い、時系列的にデータを集めて解析する。北海道大学「北星丸」、東海大学「望星丸」、海洋科学技術センター「みらい」などの参加で、1998年6月から2000年2月にかけて18回の本格観測を行った。その結果、現場での培養法による夏季から秋季の生物生産量(一次生産量)は、東部亜寒帯太平洋と比較して大きなものではなかった。一方、全炭酸の変化からは炭素輸送量が求められるが、東部太平洋の2倍ほどに大きいことがわかった。一般的に炭素輸送量の1次生産量に対する比率は熱帯海域では小さく、湧昇域や高緯度海域で高いのであるが、KNOT点を含む西部北太平洋では炭素の鉛直輸送比率が非常に高いことが示唆された。このことは、西部北太平洋ではケイ藻類を主体とする植物の生産が起こることに関連していると考えられる。1999年は5月の「みらい」による観測航海において、定点の近傍で春のプランクトンブルームに遭遇し、極めて大きな生産量が観測された。このことから、西部北太平洋において、春から夏にかけてエピソード的に起こる生産現象が物質循環を支配していることが明らかになった。このことが、定点来訪時にしか培養測定できない一次生産量からは、海域の生産の大きさを推定することが難しいことが示唆された。一方、炭酸の変化から求められる炭素輸送量は期間の積算値であるので、エピソード的な現象を含んでいる。このような現象のダイナミックスを規定する要因の解明を、データの解析と生物化学モデル展開から進める。

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