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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 1053
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「環境低負荷型の社会システム」平成7年度採択研究代表者
「環境低負荷型の高分子物質生産システムの開発」

土肥 義治1)
1) 理化学研究所 主任研究員
Abstract:  生物の物質生産機能を利用して、再生可能な生物有機資源(糖、植物油など)や二酸化炭素から優れた性能や特異な機能をもつ新しい高分子材料を創製する科学技術を開拓することは、持続可能な社会を実現する上で重要な課題である。地球上の生物は、生命活動を営むために、核酸、タンパク質、多糖、ポリエステルなど多種多様な高分子物質を合成している。これらの生物高分子は、さまざまな機能を発現する生体材料として重要な役割を果たしたのちに、体内代謝や環境微生物によって分解され、最終的には二酸化炭素と水とに代謝される。その二酸化炭素を植物や藻類が再び高分子物質に変え、さらに動物がそれを利用するという、地球上の炭素サイクルが確立されてる。しかしながら、化石資源を大量に消費する人間活動によって大気中の二酸化炭素濃度が徐々に増大しており、地球環境への影響が心配されている。石油などの化石資源に依存する現行の高分子物質生産体系では、究極的には化石資源を二酸化炭素に転換し、大気中の二酸化炭素濃度を増加させることになる。21世紀には、生物有機資源(バイオマス)や二酸化炭素を原料とする高分子物質生産体系(生物化学工業など)を発展させる必要がある。このような背景から、地球環境と調和する持続可能な人間社会を実現するための科学技術の一つとして、微生物や植物の物質生産機能を利用して、生物有機資源や二酸化炭素から人間の生活や産業活動に有用な高分子物質を生産する基盤科学技術を確立するための研究課題を提案した。幸いにも、平成7年度の「戦略的基礎研究、環境低負荷型の社会システム」の一研究課題として採択され、「環境低負荷型の高分子物質生産システムの開発」を目標に研究プロジェクトを開始することができた。本研究では、高分子科学、材料科学、生物科学、環境科学の異なる学問領域で活躍している研究者の共同作業によって、新しい高分子物質の生合成、高生産生物の育種、効率的生産、高性能材料化、高機能材料化、生分解性制御、環境影響評価という一連の基礎研究を実施して、平成12年度末までの5年間で「環境低負荷型の高分子物質生産システム」を実現するための基礎技術を確立することを目標としている。ところで、微生物は、多様な炭素資源から特定の重合前駆体(モノマー)を合成し、それを重合酵素の作用で高分子化する、最小単位のポリマー生産工場である。微生物の代謝作用と重合酵素の構造と性質を知ることによって、環境低負荷型の高分子物質生産システムを開発できると確信している。本研究では、核酸、タンパク質、多糖につづく第四の生物高分子として注目され始めたバイオポリエステルについて重点的に研究を推進している。まず初めに、微生物の高分子物質合成反応に関与する酵素群とそれらの遺伝子の構造と機能に関する研究を進め、その知見をもとに遺伝子工学や代謝制御工学などの技術を用いて、合目的構造に分子設計された新規ポリエステルを生合成する手法を開発している。さらに、遺伝子操作によって高性能ポリエステルを高い効率で生産する微生物や植物を育種している。生物合成したバイオポリエステルの材料表面構造および固体構造を制御することによって高性能材料や高機能材料を創製している。これらの高分子材料の微生物分解メカニズムを解明し、分解酵素の構造と特性を理解することによって高分子材料のリサイクリング技術を確立したいと考えている。本研究では、バイオポリエステル(生分解性高分子)について重点的に研究を推進した。バイオポリエステルの生合成、機能解明、構造解析、遺伝子解析、高生産生物の育種、効率的生産、高性能材料化、高機能材料化、リサイクリング技術開発という一連の基礎研究を異分野の研究者の共同作業で実施している。

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