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平成11年度 戦略的基礎研究推進事業 「研究年報」
Vol. 1 (2000) 1046
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「環境低負荷型の社会システム」平成7年度採択研究代表者
「森林衰退に係わる大気汚染物質の計測、動態、制御」

佐久川 弘1)
1) 広島大学総合科学部 助教授
Abstract:  本研究では、全国各地で、森林衰退と大気汚染との関連性を調査している気象学、大気化学、分析化学、植物生態学、植物生理学、微生物学の各分野の研究者を組織化し、共通の視点·手法でその原因解明を試みている。具体的には、樹木の衰退が見られる全国4地点(丹沢·大山、乗鞍岳、瀬戸内海沿岸山林、九州山岳地域)で調査をそれぞれ実施した。過去4年間の研究結果をまとめると次のようになる。大気汚染·酸性雨·酸性霧の調査、気象要素との関連性に関する調査(野外観測)に関しては、観測した4地点とも格段の進歩があった。すなわち全ての地点で、酸性降下物および(あるいは)光化学オキシダントが、森林衰退と明確な関連性があると判断された。しかし、樹木の衰退に直接関与する汚染物質は必ずしもすべての地域において共通ではなく、気象条件、人為汚染の程度、樹種により異なることがわかった。一方、人工環境下における汚染物質の樹木への曝露実験(温室実験あるいはオープントップチェンバー実験)を行い、単独もしくは複数(酸性降下物、オゾン、有機酸、活性酸素種など)の汚染物質の直接影響を評価した。これらの汚染物質の曝露により、新芽の抑制、気孔の開閉度や光合成能力の変化などの影響が2-3ヶ月程度の曝露実験により発現することが示された。以上の野外観測および曝露実験より、多くの大気汚染物質のうち、特定の物質が直接的に樹木の衰退に関与することが明らかとなった。また、衰退の過程もおおよそ推定できた。特に窒素酸化物から二次的に発生するいくつかの有害物質が樹木の衰退に関与することを明らかにした点は重要である。一方、大気汚染による衰退と、マツノザイセンチュウなどの病害虫や林床管理の有無との相互作用に関する研究も実施し、相乗効果を評価しつつある。2000年度は、これらの研究および樹木の衰退に直接関与する汚染物質の制御に関する研究も実施する予定である。

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