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終了報告書「科学技術振興事業団国際共同研究セラミックス超塑性プロジェクト」
Vol. 1 (2000) p.135
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走査型透過電子顕微鏡を用いたセラミックス粒界のキャラクタリゼーション
金子 賢治1)
1) 科学技術振興事業団·国際共同研究事業セラミックス超塑性プロジェクト
  20世紀後半の材料科学の進展に果たした透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy;TEM)の役割については、今更とりあげる必要もないと思われる。分解能で0.1nmを切り原子コラムの一つ一つを分離して観察をすることが可能な高分解能像観察が可能となり、まさに原子的尺度での構造解析が可能となってきている。分析電子顕微鏡に目を転じると、ナノ·プローブ技術や本稿で述べる走査型専用透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscopy;STEM)の開発により、プローブ径を1.0nm以下に集束させた電子ビームを用いたエネルギー分散型特性X線分析(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy;EDS)や電子エネルギー損失分光(Electron Energy-Loss Spectroscopy;EELS)が可能となった。とくにEELSは、平行同時計測器の開発により、従来よりも飛躍的に高いシグナル/ノイズ比とエネルギー分解能での計測が可能となり、元素分析のみならず、電子状態や化学状態の局所分析手段として注目を集めている。これらの電子顕微鏡は微細組織の制御を主にした最近の材料開発には無くてはならない存在である。本稿では、セラミックス超塑性プロジェクトに導入されたSTEM専用機(英国製VG-HB601UX)を利用したセラミックス粒界の局所分析の成果について述べる。多結晶セラミックスは通常粉末材料を焼結し作製するため、必ず粒界が存在する。この多結晶セラミックスに単結晶にはみられない機能が発現するのは、その粒界における原子配列の乱れや不純物の偏析や粒内における固溶に起因する特異な性質が、単結晶固有の性質に重畳するためである。機能性材料としてはZnOバリスタやBaTiO3のPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスターなどが、この粒界の機能をうまく利用した代表例である。構造材料では、破壊靭性や超塑性などの性質が、やはり粒界の存在なしには議論できない。粒界がこのようにセラミックスの巨視的なふるまいを決定していることについては古くから指摘があるが、それがミクロやナノのスケールでの原子あるいは電子において実際に何が起きているのかという点には、未だほとんど手がつけられていないのが現状である。新しいセラミック材料を的確に開発するためには、このような尺度での情報が不可欠であることは明らかであり、試料作成法の充実もさることながら、高分解能TEMや分析電子顕微鏡等の道具立てがそろった今こそ、この分野の大きな進歩が期待できる。

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