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「動植物細胞におけるストレス応答機構」に関する共同研究
Vol. 1 (2000) 665
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植物融合細胞におけるストレスの発現とその調節
久保 康児1), 永安 義浩1), 宮崎 智也1)
1) 八江農芸(株)育種農場
Abstract:  現在植物の交配育種を進める上で、特にニンジン、タマネギ等は、細胞質雄性不稔形質(cytoplasmic male sterility:CMS)を利用しているが、その母系統を育成するためには、多くの時間と労力を要している。一方、近年の遺伝子工学等の発展により、CMSにミトコンドリアが深く関与している事が明らかとなっている。これらのことから、CMS母系統の早期育成を目的として、非対称細胞融合によるCMS導入個体の育成が試みられたが、導入効率が悪く実用面で不安が残っている。そこで、高率かつ安定した導入を目的として、非対称細胞融合法及び培養系の改善を検討した。
植物種には、ニンジンの細胞質雄性不稔系統と可稔系統を用いた。各々のプロトプラストの前処理条件(核、細胞質の不活性化)と培養条件を明らかにした後、電気細胞融合を行い、得られた再生個体について開花調査した。
プロトプラストの核の不活性化には、軟X線を用いた。10Gy/minと20Gy/minの線量で時間を変えながら照射したところ、照射量が多くなるに従い、プロトプラストからの体細胞胚形成を抑制し、300Gy以上で体細胞胚形成は見られなくなった。また、細胞質の不活性化には、ヨードアセトアミド(IOA)とローダミン6G(R6G)を用いてインキュベートしたところ、5mM IOA、4min以上の処理で体細胞胚形成が見られなくなった。次に、融合した後の細胞を数種の培地で培養したところ、修正MS培地(400mg/l NH4NO3)をもとにした液体培地で10%前後の体細胞胚形成率が得られた。さらに、通常融合細胞からカルスを経由した後、体細胞胚を形成する培養系が多く見られるが、本研究では、融合細胞が直接体細胞胚を形成する培養系を得ることができた。同時に、軟X線とIOA処理をしたプロトプラストも各々培養したが、数日で細胞が壊死し、体細胞胚形成には至らなかった。最終的に、再生個体を順化した後117個体を栽培したところ、54個体が開花した。開花個体の花型を調査した結果、CMSの表現形質であるpetaloid-typeの株は22個体であり、その他、brown anther-typeの株が24個体、normal-typeの株が8個体であった。

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