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「動植物細胞におけるストレス応答機構」に関する共同研究
Vol. 1 (2000) 371
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UV照射後の選択的MAPK活性化における酸素の役割
松田 尚樹1), 堀川 美和2), 王 立紅2), 吉田 正博1), 岡市 協生3), 奥村 寛1), 渡邉 正己2)
1) 長崎大学アイソトープ総合センター
2) 長崎大学薬学部·放射線生命科学
3) 長崎大学医学部·原研放射
Abstract:  UVにより生じる酸素ストレスは、細胞のUV応答性に関わるシグナル伝達経路において重要な役割を演じていると考えられている。MAPキナーゼ(MAPKs)、すなわちextracellular-related kinase(ERK)1/2、c-Jun N-terminal kinase/stress activatedprotein kinase(JNK/SAPK)そしてp38は、そのようなシグナル伝達に関わる分子の一群であるが、UVに対する各MAPK経路の活性化と、その結果生じる生物学的応答の間の関係は明らかではない。本研究では、異なる酸素ストレス量がMAPKsの活性化および細胞応答性に与える影響について検討した。通常の酸素環境(normoxic, 20% O2)で培養したヒト胎児由来正常細胞(HE49)にUV-C(254nm;16J/m2)を照射すると、照射後30分で細胞内酸化状態(redox level)が上昇した。それに対して、抗酸化剤であるN-acetyl-L-cysteine(NAC)存在下、あるいは生理的低酸素環境(hypoxic, 5% O2)で培養した細胞では、UVC照射による細胞内酸化状態の上昇が抑制された。MAPKsの中では、ERK1/2とJNKがUVCにより活性化した。このうちERK1/2活性は細胞内酸化状態によって影響を受けなかったが、JNK活性はNAC存在下あるいはhypoxicな環境では顕著に抑制された。さらに、NAC存在下あるいはhypoxicな環境ではUVC照射によるアポトーシスが抑制され、細胞生存率の上昇が見られた。以上の結果より、UVにより生じる酸素ストレスは主にJNK経路から細胞内シグナルに変換されること、さらに、異なる酸素ストレス環境におけるERK1/2とJNK活性化のバランスの違いが細胞のUV応答性を修飾している可能性が示唆された。

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