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「動植物細胞におけるストレス応答機構」に関する共同研究
Vol. 1 (2000) 271
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動物細胞のストレス応答に関する研究(I):
熱ショック蛋白質(HSP)の機能に関する研究

鈴木 啓司1), 渡邉 正己1), 児玉 靖司1)
1) 長崎大学薬学部放射線生命科学
Abstract:  放射線、紫外線、熱あるいは化学物質などの環境中の物理·化学的ストレスに対し、生体はいわゆる“ストレス応答反応”と呼ばれている一連の誘導機構を惹起する。このようなストレス応答反応は、多変する自然環境中で生命が存在するために必須かつ基本的な機能として獲得したメカニズムであると考えることができる。我々は、ストレス応答反応を細胞レベルあるいは分子レベルで解明するため、ストレス応答因子の同定を試みてきたが、正常ヒト胎児由来細胞において太陽紫外線や温熱変化など、マイルドなストレスに応答し誘導される蛋白質として熱ショック蛋白質(HSP)の1つHSP72を同定した。これまでに、1)紫外線や温熱処理など異なったストレスは、それぞれCREあるいはHSEと呼ばれるヒトHSP72遺伝子のプロモーターに存在する別々の転写調節配列を介してHSP72蛋白質遺伝子の発現を誘導していること、2)ファイブロネクチンなどの細胞外基質や、その量的·質的変化にともなう細胞形態変化が、ストレスによるHSP72蛋白質の誘導に影響を及ぼすこと、3)誘導されたHSP72蛋白質は、変性蛋白質の修復や細胞周期制御を介したDNA損傷修復のための時間的場の提供など、異なったストレスに対し異なった機能を発現すること、4)HSP72蛋白質はストレス状況下のみならず、平常時の生理的条件下でも構成的に発現し、細胞の分裂·増殖に重要な働きをしていること、5)HSP72蛋白質はがん抑制遺伝子産物の1つであるp53蛋白質と蛋白質-蛋白質複合体を形成し、細胞周期制御に直接的に関与する可能性があること、6)遺伝子発現プラスミドベクターの導入によるHSP72蛋白質の過剰発現がストレス後の細胞内ゲノム不安定性を誘導すること、7)正常ヒト細胞の老化に伴い、外的ストレスに対する応答性が低減していくこと、8)低レベル温熱ストレスの反復が細胞寿命の延長や、細胞分化を促進すること、を明らかにしてきた。また、ヒト細胞におけるHSP72相同蛋白質が、植物細胞にも存在することをハマボウフウ(Glehnia littoralis)培養細胞を用いて証明し、更にこのHSP72様蛋白質の発現レベルは植物細胞の増殖に相関して増加し、逆に細胞分化マーカーの発現に伴い減少することを見いだした。

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