TOP > 巻一覧 > 目次一覧 > 書誌事項


「動植物細胞におけるストレス応答機構」に関する共同研究
Vol. 1 (2000) 256
[PDF (139K)] [引用文献


DNA修復欠損細胞における放射線誘発遅延性損傷の解析
児玉 靖司1)2), 鈴木 啓司1), 横山 兼久2), 森田 直子2), 中山 由紀子2), 渡邉 正己1)
1) 長崎大学薬学部保健衛生薬学講座放射線生命科学教室
2) 科学技術振興事業団長崎研究室
Abstract:  放射線被曝後20回以上分裂した生存細胞に、遅延性損傷が生じることが知られている。この放射線による遅延性損傷は、コロニー形成率の低下、巨大細胞の生成、染色体異常の生成、及び遺伝子突然変異の生成などの変化を細胞にもたらす。これらの異常はいずれも、細胞の持つ遺伝子安定保持機構の乱れに起因するものであり、特に放射線発癌を考える上で重要な現象である。本研究は、放射線による遅延性損傷の誘発にDNA損傷修復機構がどのように関わっているのかを明らかにするために、DNA鎖切断の非相同末端結合に関わるDNA依存的プロテインキナーゼ(DNA-PK)の機能に欠損を示すscidマウス細胞を用いて、放射線による遅延性損傷の誘発について調べた。scid細胞のX線感受性は、野生型及びscidヘテロ細胞に比べて、約4倍感受性であった。そこでそれぞれの細胞で10%生存率を与えるX線線量を用いて、遅延性増殖死について調べたところ、いずれの細胞でも同程度に誘発されることが分かった。しかし、遅延性染色体異常に関しては、野生型およびscid細胞ともに自然発生頻度が高いために、放射線による染色体異常頻度の明確な上昇を示す結果は得られなかった。そこで、両細胞から自然染色体異常頻度の低い細胞を分離して、放射線による遅延性増殖死と染色体異常について調べた。その結果、野生型細胞に比べて、scid細胞では依然として自然染色体異常頻度が2∼5倍高く、また、放射線による遅延性増殖死と染色体異常が大きく現れる傾向があることが分かった。このことは、同じ生存率で比べた場合、scid細胞では野生型細胞より遅延性損傷が高感度に発現される可能性を示唆している。

[PDF (139K)] [引用文献

Copyright(c)2000 科学技術振興事業団